説明

ムチン複合糖質の酵素的大規模合成、およびその免疫原適用

本発明は、ムチン複合糖質、およびムチン複合糖質の産生方法に関する。本発明は、その生物学的、薬学的および医学的適用に関する。本発明は特に、免疫応答(抗Tn IgG)を誘導するためにKHLのようなタンパク質担体を必要としないムチン複合糖質を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tnに基づくムチン複合糖質、例えばムチン−Tn、ムチンsTn、ムチン−TF複合糖質、および特に寛解、予防、治療による腫瘍の処置の分野における、その生物学的、薬学的、および医学的適用、より特定すると、その免疫原適用に関する。
【0002】
発明の背景
悪性細胞は、細胞の接着、浸襲および転移において機能的な重要性を有する分子をその表面に選択的に発現する。これらの腫瘍関連構造のいくつかは、グリコシル化経路の封鎖の結果である。特に、O−グリカン糖鎖の不完全な伸張は、Tn、シアリル−TnまたはTF抗原のようなより短い炭水化物構造の発現を導く(Hollingsworth and Swanson 2004)。セリンまたはトレオニン残基にα結合したGalNAc単位(α−GalNAc−O−Ser/Thr)として定義されるTn抗原は、最も特異的なヒト腫瘍関連構造の1つである。Tnはヒトガン腫の約90%において検出され(Springer 1984)、そしてその発現はガン腫の攻撃性と相関している(Springer 1997)。さらに、適切な条件下では、Tnはマウスおよび非ヒト霊長類において強い免疫応答を誘導することができ、生じた抗体はヒトガン細胞を認識することができる(Lo-Man et al. 2001, Lo-Man et al. 2004)。
このO結合型エピトープは通常ムチン上にその炭水化物コア構造として発現される(Hollingsworth and Swanson 2004)。ムチンは、上皮表面の防御、潤滑および酸耐性に関与する高分子量のO−グリコシル化タンパク質である(その質量の50〜80%はO結合型糖鎖に起因する)(Gendler and Spicer 1995)。今日までに、様々なムチンが同定され、そしてそれらの記載の年代順に番号付けされている(MUC1〜MUC20)(Chen et al. 2004, Filshie et al. 1998, Gum et al. 2002, Higuchi et al. 2004, Moniaux et al. 2001, Pallesen et al. 2002, Williams et al. 2001, Yin and Lloyd 2001)。それらは配列の相同性を示さないが、全てのムチンはタンデム反復数(VNTR)から構成される大きな領域を示す。通常タンデム反復と呼ばれるこれらの領域は、セリン、トレオニン(これらは潜在的なO−グリコシル化部位を構成する)およびプロリン残基の高含量によって特徴付けられる。
各々の器官または組織はMUC遺伝子発現の特有のパターンを示す(Gendler and Spicer 1995)。このムチン発現プロフィールは、病理学的条件下で、そして特に悪性トランスフォーメーションの間に改変され得る。ムチンタンパク質のアップレギュレーション、ダウンレギュレーション、およびde novo発現がガン上皮細胞において報告されており、そして細胞接着に影響を及ぼし(Hilkens et al. 1992)そして腫瘍の浸襲性に寄与する(Segal-Eiras and Croce 1997)と考えられている。さらに、これらの腫瘍関連ムチンは、正常ムチンとの抗原性の相違を示し、そして高度に免疫原性であり、それでそれらは免疫療法の潜在的な標的として使用され得る(Agrawal et al. 1998, Apostolopoulos et al. 1996)。特に、MUC1は抗ガンワクチンとしていくつかの臨床試験を受けている(Finn et al. 1995, Gilewski et al. 2000)。
MUC6は最初にヒト胃ライブラリーから単離され(Toribara et al. 1993)、そして正常な胃および胆嚢において高レベルで発現されており、回腸末端、右側結腸および子宮頸内膜においてより弱く発現されている(De Bolos et al. 1995, Ho et al. 1995, Reis et al. 2000, Toribara et al. 1993)。MUC6は169アミノ酸(各507bp)のタンデム反復単位を有しており(Toribara et al. 1993)、そして最も短いMUC6アレルのサザンブロット分析によって、それらが少なくとも15個の反復単位を含有していることが示されている(Vinall et al. 1998)。MUC6遺伝子全体は局在化されそして同定されたが、全長cDNAは完全には配列決定されていない(Rousseau et al. 2004)。胃組織におけるその正常発現に加えて、MUC6はバレット腺ガンおよび化生(Guillem et al. 2000)、腸腺腫およびガン腫(Guillem et al. 2000)、肺ガン腫(Hamamoto et al. 2005, Nishiumi et al. 2003)、直腸結腸ポリープ(Bartman et al. 1999)および乳ガン腫(De Bolos et al. 1995, Pereira et al. 2001)において検出されているが、それぞれの正常組織においては発現されていない。いくつかの場合、MUC6の発現は悪性の潜在性に関連した組織病理学の程度と相関することが報告されている(Bartman et al. 1999, Hamamoto et al. 2005, Nishiumi et al. 2003)。本発明者らは最近、MCF7乳ガン細胞において、MUC6が、Tn抗原を含有していることから、異常グリコシル化されていることを示した(Freire et al. 2005)。いくつかの研究により、ムチン上の炭水化物構造(コアTn抗原を含む)が腫瘍関連構造の規定に重要であり得ることが示されている(Grinstead et al. 2003, von Mensdorff-Pouilly et al. 2005)。それゆえ、Tn−MUC6複合糖質は、ガン免疫療法において使用されるべき魅力的な標的を表す。特異的抗Tn抗体応答は、ガン細胞を、その表面上に発現されているTn抗原を通して標的化するはずである。さらに、ムチン特異的細胞傷害性Tリンパ球の活性化は、樹状細胞上のFcレセプターによる可溶性MUC6−Tn免疫複合体の取り込みを通して促進されるはずである(Amigorena and Bonnerot 1999)。
【0003】
しかし、先行技術はムチン−Tn複合糖質の容易な産生を可能にしない欠点を有していた。
【0004】
先行技術のムチン−Tn複合糖質は:
− 天然の複合糖質、または
− 合成糖ペプチド
である。
【0005】
天然のムチン−Tn複合糖質は生物学的供給源からの単離によって得られる(Podolsky 1985; Robbe et al. 2004)。そのような複合糖質は非常に少量でしか得ることができない。そのアポムチン骨格は完全なアポムチンタンパク質であり、これは多数の様々な炭水化物残基を保有している。天然のムチン−Tn複合糖質は、Tn、sTnおよびTF抗原のみならず、多数の他の炭水化物残基も含有しており、その性質はそれらが由来する細胞の型、状況および状態に依存して変動する。
天然の抗原性複合糖質の調製は、さらに、多段階の面倒なそして/または時間のかかる精製に依存する。
【0006】
他の先行技術のムチン−Tn複合糖質は合成ムチン−Tn糖ペプチドである。そのアポムチン骨格は数アミノ酸に限定される。
【0007】
例えば、Kagan et al. 2005は、MUC1またはMUC2糖ペプチドのKHL複合体を開示している。これらのKHL複合体のペプチド骨格はMUC1またはMUC2 32aaペプチドであり、そしてこれらのペプチドをグリコシル化するために使用される酵素はT2および/またはT4 N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼである。
そのような先行技術の糖ペプチドは、単独で使用した場合、免疫原性応答の誘導がさほど効率的ではない:それらは、その抗原性特性(ある場合)を発揮するために、KLHのようなタンパク質担体にコンジュゲーションすることを必要とする。その結果、免疫原としてこれまでに使用されたムチン由来の糖ペプチドは、実際、KLH複合体である。
【0008】
他の合成ムチン糖ペプチドが本発明者らによってFreire et al. 2005(Cancer Res. 65(17): 7880-7887)に記載されている。
Freire et al. 2005は、MUC6−Tn糖ペプチド(GTTPPPTTLK;配列番号14)、およびMUC1−Tn、MUC2−Tn、MUC5B−Tn糖ペプチドの産生を記載している。これらのムチン−Tn複合糖質のアポムチン骨格は9〜12aaのペプチドである(MUC6−Tnについては10aa;MUC1−Tnについては9aaまたは11aa;MUC2−Tnについては12aa;MUC5B−Tnについては11;Freire et al. 2005の第7881頁を参照のこと)。
これらのムチン−Tn糖ペプチドは以下のいずれかによって産生される:
− 保護グリコシル化素材[Fmoc−Thr(α−GalNAc(OAc)3)−OH]をペプチド配列の適切な位置に使用する非常に高価な糖ペプチド合成方法(第7881頁の"Materials and Methods"節の"synthetic (glyco)peptides"と題された段落を参照のこと)、または
− GalNAcのアポムチンペプチド中への酵素的転移、ここで、MCF−7ミクロソーム抽出物はppGalNAc−T活性の供給源として使用され、そしてグリコシル化は逆相HPLCによってモニタリングされる(第7881頁の"Materials and Methods"節の"Enzymatic transfer of GalNAc or Gal into MUC6 or MUC6-Tn, respectively"と題された段落を参照のこと;第7882頁のFigure 1も参照のこと)。
しかし、両方の方法は、9〜12aaのペプチドのグリコシル化に限定され、半調製(semi-preparative)量の産生(mg〜g)を達成しない。
Freire et al. 2005は、KLHのようなタンパク質担体に結合されているにせよそうでないにせよ、これらのMUC6−Tn、MUC1−Tn、MUC2−Tn、MUC5B−Tn糖ペプチドについての免疫化関連結果をさらに開示していない。
【0009】
Tn抗原に基づいた抗腫瘍ワクチンをさらに開発するために、本発明者らはTnに基づくムチン複合糖質の調製のためのin vitroでの酵素的方法を提供し、そして新たなムチン糖ポリペプチドおよび新たな免疫原性組成物を記載する。これらは、先行技術の欠点を克服し、そして高度に効率的な免疫原性応答を誘導することができる。
【0010】
本発明者らは、少なくとも半調製規模の量で高Tn密度のムチン複合糖質の産生を可能にする酵素的アプローチを開発した。
【0011】
先行技術の合成糖ペプチドとは反対に、本発明のムチン複合糖質は、担体タンパク質の非存在下で使用した場合でさえ、免疫原性である。
【0012】
本発明の免疫原性ムチン複合糖質は、天然の複合糖質とは、その炭水化物成分が不均一で可変性の組成を有しないという点で異なる。本発明の免疫原性ムチン複合糖質の炭水化物成分は厳密な組成を有している:アポムチン骨格のSerまたはThr残基に直接的にO結合されている炭水化物部分の各々はGalNAc部分である。
【0013】
本発明者らの知る限り、これが、タンパク質担体なしで、Tn抗原を保有するムチン由来ポリペプチドでの免疫化後のヒト腫瘍細胞特異的抗体の誘導を報告する最初の成果である。
【0014】
非常に有利な特徴として、本発明に従って産生されるムチン複合糖質は、特異的免疫原性効果である免疫原性効果を誘導する:in vivoでの投与に際して、本発明のムチン複合糖質は、Tn依存性機構を通してヒト腫瘍細胞を認識することができる抗体、有利にはIgG抗体、を誘導することができる。
【0015】
発明の概要
Tn抗原に基づいた抗腫瘍ワクチンをさらに開発するために、本発明者らは、ムチン複合糖質、より特定するとMUC6−Tn複合糖質の調製のためのin vitroでの酵素的方法を確立した。この目的のために、本発明者らは、少なくとも1つのUDP−N−アセチルガラクトサミン:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.41、ppGalNAc−T)を使用することによって、ムチンのセリンおよびトレオニン残基上へのGalNAcの酵素的転移を行った。
本発明の方法の有利な特徴として、特に反応混合物が複雑な組成を有する場合、SELDI−TOF(表面増強レーザ脱離/イオン化飛行時間)質量分析を使用して、ムチン上のコンジュゲーションをモニタリングする。
【0016】
本発明による組換えムチンタンパク質のトランスグリコシル化方法は、出発タンパク質の100%がグリコシル化種に変換されたので、非常に簡便かつ有効である。
【0017】
さらに、高いグリコシル化率、すなわち高いTn密度が達成される。
【0018】
本発明者らの知る限り、Tn、sTn、またはTF以外の炭水化物部分を欠いた、Tn/sTn/TFグリコシル化組換えポリペプチドが、少なくとも1つのppGalNAc−Tの使用によって、半調製量で得られるのは、これが最初である。
【0019】
本発明者らの知る限り、これが、タンパク質担体なしで、Tn抗原を保有するムチン由来ポリペプチドでの免疫化後のヒト腫瘍細胞特異的抗体の誘導を報告する最初の成果である。
【0020】
非常に有利な特徴として、本特許出願によって利用可能になった産物は、in vivoでの投与に際して、Tn依存性機構を通してヒト腫瘍細胞を認識することができるIgG抗体を誘導することができる。
【0021】
本発明者らの知る限り、SELDI−TOF(表面増強レーザ脱離/イオン化飛行時間)質量分析を使用して、特に混合物が複雑な組成を有する場合に、ムチン上のコンジュゲーションをモニタリングするのは、これが最初である。
【0022】
本発明は、規定された炭水化物種(すなわち、Tn、sTn、TF抗原)の中から選択される1個または数個の炭水化物部分の組み込みによって、均一なムチン複合糖質を産生する方法、およびこの方法によって得られる均一なムチン複合糖質に関する。
本発明の複合糖質の炭水化物成分は、少なくとも1つのTn、sTn、またはTF抗原からなり、Tn、sTn、TF以外の炭水化物部分を含まない。それゆえ、本発明の複合糖質は、天然の複合糖質よりも構造的にずっと均一である。
【0023】
本発明はまた、そのアポムチン成分が少なくとも1つのムチンタンデム反復単位、またはその保存的フラグメントもしくは誘導体を含むアポムチンポリペプチドまたはタンパク質である、均一なムチン糖ポリペプチドまたはムチン糖タンパク質(ムチン−Tn、ムチン−T、またはムチン−sTn)、ならびにそのような糖ペプチドをコードする核酸、およびそのような核酸を含むおよび/またはそのような糖ポリペプチドもしくは糖タンパク質を発現するベクターおよび宿主細胞に関する。そのようなムチン糖ポリペプチドまたは糖タンパク質は、本発明の方法によって得ることができる。
【0024】
本発明はまた、ムチン複合糖質を含み、そして免疫原性効果を誘導するためのタンパク質担体の存在を必要としない組成物、すなわち、医薬組成物、薬物、免疫原性薬物、ワクチンに関する。
本発明はまた、ムチン複合糖質の抗腫瘍適用に関する。
【0025】
発明の詳細な説明
本出願において、用語「ムチン」、「アポムチン」、「Tn」は当該分野におけるそれらの通常の意味を有する。
より特定すると、ムチンは当業者によってセリンおよび/またはトレオニン残基における高度のO結合型グリコシル化を有する高分子量の糖タンパク質(M>10)として定義される。ムチン型糖タンパク質は、S−S依存性結合によってさらに重合され、そして上皮分泌の主成分である。
2つの明らかに異なる領域が天然の成熟ムチンにおいて見出される:
・ アミノおよびカルボキシ末端領域は非常に軽度にグリコシル化されているが、システインに富んでおり、それはムチン単量体の内部および間でのジスルフィド結合の確立に関与しているようである。
・ 半分までのアミノ酸がセリンまたはトレオニンである10〜170残基の複数のタンデム反復から形成される大きな中央領域。この区域は数百のO結合型オリゴ糖で飽和される。N結合型オリゴ糖もまたムチン上に見出されるが、ずっと少量である。
本明細書における用語「アポムチン」は、その炭水化物成分に対して、ムチンのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド部分を指す。
Tn(T非依存性)抗原は、ムチンのアポムチン部分のSerまたはThr残基にO結合したN−アセチルガラクトサミン炭水化物である。Tn抗原はGalNAc−α1,O−Ser/Thrである。
【0026】
本発明は、
− 天然の供給源からの単離によっては得られないが、本発明のin vitroでの酵素合成方法によって得ることができ、そして
− ヒト腫瘍細胞を認識する抗体、より特定するとIgG抗体を誘導することができる、
Tnに基づくムチン複合糖質、より特定するとムチン−Tn複合糖質、および有機基の付加によってそれから直接誘導される複合糖質、例えばムチン−T複合糖質およびムチン−sTn複合糖質を提供することの概念によって特に結び付けられる産物、方法、およびその適用に関する。
より特定すると、本発明のTnに基づくムチン複合糖質は、タンパク質担体の非存在下で、ヒト腫瘍細胞特異的抗Tn抗体、好ましくはヒト腫瘍細胞特異的抗Tn IgGおよび/またはIgAを誘導することができる。
本発明者らの知る限り、本発明は、タンパク質担体の非存在下で、そのような抗体、より特定するとそのようなIgGの産生を誘導することができる、合成で産生されたムチン複合糖質の産生を可能にする手段の最初の記載を提供する。
本発明者らの知る限り、Tnに基づくムチン複合糖質が半調製量で得られるのもまた、これが最初である。
【0027】
従って、本発明の有利な特徴として、げっ歯類または非ヒト霊長類またはヒトへの投与に際して、本発明のTnに基づくムチン複合糖質は、ヒト腫瘍細胞、例えばJurkat細胞を認識する(すなわち、それに結合する)抗体、好ましくはIgGおよび/またはIgA抗体を誘導することができるが、一方同じであるがグリコシル化されていないムチンはそのようなIg誘導をすることができない(下記実施例1を参照のこと、ここでMUC6−2:Tn(MCF7)複合糖質の投与を、ミョウバン+CpG中の非グリコシル化MUC6−2タンパク質の投与と比較している)。
【0028】
本発明に従って誘導されるIgGおよび/またはIgAは、免疫化のために使用される複合糖質に対する(すなわち、その炭水化物成分、例えばTn抗原、および/またはそのMUC骨格に対する)ものである。
誘導されるIgGおよび/またはIgAは、腫瘍細胞、より特定するとヒト腫瘍細胞、例えばヒト腫瘍細胞株Jurkat(ATCC TIB−152)を認識する(すなわち、それに結合する)(下記実施例1を参照のこと)。好ましくは、前記ヒト腫瘍細胞は乳腫瘍細胞、および/または膵臓腫瘍細胞、および/または腎臓腫瘍細胞、および/または胃腫瘍細胞、および/または前立腺腫瘍細胞、および/または卵巣腫瘍細胞、および/または腸腫瘍細胞、および/または肺腫瘍細胞、および/または結腸直腸腫瘍細胞である。
【0029】
有利なことに、この腫瘍認識は、誘導される抗体(例えばIgGおよび/またはIgA)が腫瘍細胞には結合するが、非腫瘍である以外は等価な細胞には結合しないという意味で特異的であることができる。
所定の複合糖質が腫瘍細胞を認識する抗体(例えば、IgGおよび/またはIgA)を誘導するかどうかの試験は、当業者の能力の範囲内である。
例えば(例えば、下記実施例1を参照のこと、図5も参照のこと)、試験すべき複合糖質をBALB/cマウス中にi.p.注射することができる。前記複合糖質は、例えばミョウバン+CpG中で注射してもよく;次いでコントロールマウスにミョウバン中のCpGのみを与える。血清を、免疫化後に集め、そしてELISAおよび/またはFACSによって免疫化に使用した複合糖質に対するIgGの存在について試験することができる。集めた血清を、フローサイトメトリーによって腫瘍細胞、例えばヒト腫瘍細胞株Jurkat(ATCC TIB−152)の認識について試験することができる。特異的認識は、集めた血清が非腫瘍細胞、例えば乳房細胞、および/または膵臓細胞、および/または、腎臓細胞、および/または胃細胞、および/または前立腺細胞、および/または卵巣細胞、および/または腸細胞、および/または肺細胞、および/または結腸直腸細胞を認識しないことを決定することによって評価することができる。
【0030】
所望であれば、誘導される抗体(例えば、IgGおよび/またはIgA)を集めた血清から精製することができる。
【0031】
先行技術のムチン複合糖質は、KLHのようなタンパク質担体に結合させる必要がある。それゆえ、ヒトにおける抗ガン免疫療法のためのその適用に関して制限を有している。担体分子に対する免疫応答は、産生された抗体の総量に比較して低レベルの所望の抗体を生じる。これは、ヘプテン分子に対する免疫応答の担体誘導性抑制を導き得る(Schutze et al. 1985)。
これらの先行技術の複合糖質とは反対に、本発明のTnに基づくムチン複合糖質はKLHのようなタンパク質担体に結合させる必要がない。
さらに、先行技術のKLH結合複合体とは反対に、本発明のTnに基づくムチン複合糖質の構造および組成は、質量分析によって正確に決定することができる。この特徴は、ヒトにおける承認のための規制団体の要件を満たすために重要である。それによって、本発明は、先行技術の複合糖質よりも抗腫瘍ワクチン適用に特にずっと適合した化合物を提供する。
【0032】
従って、本発明は、タンパク質担体の非存在下で、ヒト腫瘍細胞、例えばJurkat細胞を認識する抗体、好ましくはIgGおよび/またはIgA抗体を誘導することができる免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質に関する。より特定すると、本発明のTnに基づくムチン複合糖質は、ヒト腫瘍細胞特異的抗Tn抗体、好ましくはヒト腫瘍細胞特異的抗Tn IgGを、タンパク質担体の非存在下で誘導することができる。
【0033】
本発明のTnに基づくムチン複合糖質は、アポムチン骨格に結合された少なくとも1つの炭水化物部分、好ましくは複数の炭水化物部分を含む。
これらの炭水化物部分の少なくとも1つは、アポムチン骨格のSerまたはThr残基に直接的にO結合される。
本発明のTnに基づくムチン複合糖質において、前記アポムチン骨格のSerまたはThr残基に直接的にO結合される炭水化物部分の各々はGalNAc部分である。
【0034】
本発明のTnに基づくムチン複合糖質のアポムチン骨格は、有利には、アポムチンタンパク質、または少なくとも1つのタンデム反復単位を保持しているアポムチンフラグメント、またはアポムチンタンデム反復単位の少なくとも15個のアミノ酸、好ましくは少なくとも20個のアミノ酸のフラグメントを保持しているアポムチンサブフラグメントである。
好ましくは、前記フラグメントまたはサブフラグメントは、ヒト腫瘍細胞、例えばJurkat細胞を認識する抗体、より特定するとIgGおよび/またはIgA抗体を誘導する前記能力を保持している。
【0035】
前記アポムチン骨格は、有利には、アポムチンタンパク質、またはアポムチンフラグメントもしくはサブフラグメントの保存的変異体であることができ、前記保存的変異体は、少なくとも1つのヒト腫瘍細胞、例えばJurkat細胞を認識する抗体、より特定するとIgGおよび/またはIgA抗体を誘導する前記能力を保持している。
【0036】
前記アポムチン骨格は、有利には、少なくとも2つのアポムチンタンパク質、および/または少なくとも2つのアポムチンフラグメントおよび/またはサブフラグメントおよび/または変異体を含む、合成または組換え産生されたアポムチン骨格であることができる。そのようなアポムチン骨格は非常に有利である。なぜならそれが、様々な腫瘍の予防的および/または対症的および/または治癒的処置において有用であり得る、本発明のTnに基づくムチン複合糖質を導き得るからである。
前記少なくとも2つのアポムチンタンパク質および/またはフラグメントおよび/またはサブフラグメントおよび/または変異体の各々は、同一の配列、または異なる配列を有することができる。
【0037】
前記少なくとも2つのアポムチンタンパク質および/またはフラグメントおよび/またはサブフラグメントの各々は、同じムチングループ(例えば、MUC6、またはMUC3、またはMUC4、またはMUC5)に由来することができる。
前記少なくとも2つのアポムチンタンパク質および/またはフラグメントおよび/またはサブフラグメントの各々は、異なるムチングループ(例えば、MUC6およびMUC3、MUC6およびMUC4、MUC6およびMUC5、MUC3およびMUC4、MUC4およびMUC5、MUC3およびMUC5)に由来することができる。従って、前記少なくとも2つのアポムチンタンパク質は、異なるムチングループに属するムチンのアポムチンであることができる。前記少なくとも2つのアポムチンフラグメントまたはサブフラグメントは、異なるムチングループに属するムチンのアポムチンフラグメントまたはサブフラグメントであることができる。
【0038】
従って、本発明のTnに基づくムチン複合糖質のアポムチン骨格は以下:
i.少なくとも1つのアポムチン、および/または
ii.少なくとも1つのアポムチンのフラグメントであって、前記少なくとも1つのフラグメントが少なくとも1つのアポムチンタンデム反復単位を含み、そして前記少なくとも1つのフラグメントが抗腫瘍抗体、例えばIgGおよび/またはIgAを誘導する前記能力を保持している、フラグメント、および/または
iii.少なくとも1つのアポムチンのサブフラグメントであって、前記少なくとも1つのサブフラグメントがアポムチンタンデム反復単位の少なくとも15個の連続したアミノ酸を含み、そして前記少なくとも1つのサブフラグメントが抗腫瘍抗体、例えばIgGおよび/またはIgAを誘導する前記能力を保持している、サブフラグメント、および/または
iv.アポムチン、またはiiにおいて定義するフラグメント、またはiiiにおいて定義するサブフラグメントの少なくとも1つの保存的変異体であって、前記少なくとも1つの保存的変異体の配列が前記アポムチン、またはフラグメント、またはサブフラグメントの配列と、該タンパク質またはフラグメントまたはサブフラグメントの配列の全長にわたって少なくとも70%の同一性を有し、そして前記少なくとも1つの保存的変異体が抗腫瘍抗体、例えばIgGおよび/またはIgAを誘導する前記能力を保持している、保存的変異体
のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0039】
本発明の有利な実施態様によれば、本発明のTnに基づくムチン複合糖質は、KLH、BSA、オボアルブミン、またはチログロブリンのようなタンパク質担体(すなわち、免疫応答を刺激することができる抗原性構造、典型的にはペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質、またはハプテン)に結合されていない。
【0040】
前記アポムチンは、当業者が適切であることを見出し得る任意のアポムチンまたは任意のアポムチンフラグメントもしくはサブフラグメントであることができる。
アポムチンは天然のムチンから単離することができ、あるいは公知のムチンのアポムチン、またはアポムチンフラグメントもしくはサブフラグメントの配列に従って合成することができる。従って、前記アポムチン、またはアポムチンフラグメントもしくはサブフラグメントは、天然の細胞から(細胞抽出物として、または精製によって)、または遺伝子操作された細胞から得ることができる。長さの短い骨格を化学合成してもよい。
【0041】
今日までに、20個のムチンが同定されている。
公知のムチンは特に以下を含む:MUC1、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5、MUC6、MUC7、MUC8、MUC9、MUC10、MUC11、MUC12、MUC13、MUC14、MUC15、MUC16、MUC17、MUC18、MUC19、MUC20。
MUC1〜MUC20の各々は、その中央領域に特徴的なタンデム反復単位を含む。
従って、前記アポムチン骨格は、MUC1、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5、MUC6、MUC7、MUC8、MUC9、MUC10、MUC11、MUC12、MUC13、MUC14、MUC15、MUC16、MUC17、MUC18、MUC19、またはMUC20のアポムチンのフラグメントまたはサブフラグメントまたは変異体であることができる。
【0042】
大部分のムチン、例えばMUC1およびMUC2は、偏在性の発現を有する。
本発明によれば、それゆえ、好ましいムチンは、腫瘍細胞に、より特に限定された、または特異的な発現のパターンを有するムチン、例えば、MUC6、MUC3、MUC4およびMUC5である。
例えば、MUC6およびMUC5は乳房組織の腫瘍細胞によって発現されるが非腫瘍乳房細胞によっては発現されず、一方MUC1は腫瘍および非腫瘍両方の乳房細胞によって発現される。MUC5AC、MUC4、MUC6は膵臓組織の腫瘍細胞によって発現されるが非腫瘍乳房細胞によっては発現されず、一方MUC1は腫瘍および非腫瘍両方の膵臓細胞によって発現される。
MUC4はさらにアポトーシスに関与する。
【0043】
様々なムチン(より特定すると、MUC6、MUC4、MUC3、MUC5)のそれぞれの構造はHollingsworth and Swanson, 2004に記載されている(その内容を本明細書に参照により組み入れる)。Hollingsworth and Swanson, 2004の第48頁のBox 1は、ムチンのドメイン、より特定するとタンデム反復単位を記載している。
以下の表3は、いくつかのムチンのタンデム反復単位の例示的な配列を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
従って、前記アポムチンはMUC3、またはMUC4、またはMUC5アポムチンであることができる。
例えば、前記ムチンは、配列番号28のMUC3タンデム反復単位、または配列番号29のMUC4タンデム反復単位、または配列番号30または31、好ましくは配列番号30(MUC5AC)のMUC5タンデム反復単位を含むことができる。
【0046】
本発明の非常に有利な特徴として、前記アポムチンはMUC6アポムチン、またはそのフラグメントもしくはサブフラグメントであることができる。
MUC6アポムチンフラグメントを発現する遺伝子操作された細胞の例は、E.coliクローンI−3491およびI−3492であり、これらはブダペスト条約に従ってCNCMに2005年8月10日に寄託されている。
クローンI−3491は、下記実施例においてMUC6−1といわれるアポムチンポリペプチドフラグメントを発現する:これは乳ガン細胞株MCF7からクローニングされ、そして乳ガンに関連している。
クローンI−3492は、下記実施例においてMUC6−2といわれるアポムチンポリペプチドフラグメントを発現する。
MUC6のタンデム反復単位は169aaの配列である。MUC6タンデム反復単位の例示的な配列は、配列番号9、配列番号12、配列番号6、配列番号7、配列番号15のアミノ酸配列である(図1A、10A、10Bを参照のこと)。
【0047】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明のTnに基づくムチン複合糖質は、上記アポムチンの少なくとも1つのフラグメントまたはサブフラグメントを含む。それらはそのようなフラグメントまたはサブフラグメントのいくつかを含んでもよい。
【0048】
本発明において、そのようなフラグメントまたはサブフラグメントは、上記iiおよびiiiにおいて定義されるとおりである。すなわち:
− フラグメントは少なくとも1つのアポムチンタンデム反復単位を含み、そして抗腫瘍抗体、例えばIgGおよび/またはIgAを誘導する前記能力を保持しており、
− サブフラグメントはアポムチンタンデム反復単位の少なくとも15個の連続したアミノ酸を含み、そして抗腫瘍抗体、例えばIgGおよび/またはIgAを誘導する前記能力を保持している。
【0049】
好ましくは、上記iii項において定義する前記少なくとも1つのサブフラグメントは、前記タンデム反復単位の少なくとも20個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも22個の連続したアミノ酸、さらに好ましくは少なくとも25個の連続したアミノ酸、さらにより好ましくは少なくとも30個の連続したアミノ酸、なおより好ましくは少なくとも35個の連続したアミノ酸を含む。
【0050】
上記iii項において定義する前記少なくとも1つのサブフラグメントは、例えば、およそ半分のタンデム反復単位配列を含んでもよい(ただし、この半分のタンデム反復単位配列は少なくとも15アミノ酸長である)。
例えば、MUC6の場合、前記少なくとも1つのサブフラグメントは、MUC6タンデム反復単位由来の少なくとも85個の連続したアミノ酸を含んでもよい。例示的なサブフラグメント配列は配列番号12の配列を含む(MUC6−2、図10Bを参照のこと)。
【0051】
上記iii項において定義する前記少なくとも1つのフラグメントの配列は、アポムチンタンパク質のタンデム反復単位配列、例えば、MUC6(例えば、配列番号9、配列番号6、配列番号7、または配列番号15)、MUC3(例えば、配列番号28)、MUC4(例えば、配列番号29)、またはMUC5(例えば、配列番号30または31、好ましくは配列番号30)のアポムチンのタンデム反復単位からなってもよい。
【0052】
有利には、前記アポムチン骨格の配列はMUC6アポムチンであるか、またはMUC6アポムチンに由来する。
より特定すると、前記アポムチン骨格の配列は:
a.MUC6アポムチン、または
b.α.MUC6アポムチンの少なくとも1つのタンデム反復単位を含むか、または
β.MUC6アポムチンタンデム反復単位の少なくとも1つの保存的フラグメントであって、少なくとも30のSerおよびThr残基の数を保持している、保存的フラグメントを含む
ポリペプチドまたはタンパク質、または
c.MUC6アポムチン(aで定義する)、またはbで定義するポリペプチドまたはタンパク質の保存的アミノ酸変異体であって、前記保存的変異体の配列は以下:
− タンデム反復単位配列の全長にわって、前記MUC6タンデム反復単位含有アポムチンフラグメント(αで定義する)中に含有される前記少なくとも1つのタンデム反復単位の配列、または
− 保存的フラグメント配列の全長にわたって、MUC6アポムチンタンデム反復単位(βで定義する)の前記保存的フラグメントの配列、
と少なくとも70%の同一性を有し、そして
− 前記保存的変異体の配列が少なくとも30のSerおよびThr残基の数を保持している、保存的変異体、
であることができる。
好ましくは、MUC6またはMUC6由来アポムチンポリペプチド骨格中に含有されるSerおよびThr残基の最小数は、少なくとも32、より好ましくは少なくとも35、なおより好ましくは少なくとも37、さらに好ましくは少なくとも40、さらにより好ましくは少なくとも45である。
【0053】
本発明のTnに基づくムチン複合糖質は、任意の所望のO−グリコシル化の%を有することができる。
グリコシル化されるべきアポムチン骨格が少数のSerおよびThr残基を有する場合、非常に高いGalNAc転移率、例えば少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、なおより好ましくは少なくとも98%、さらにより好ましくは少なくとも99%、例えば100%が達成され得る。
本発明の有利な特徴は、それが、複雑なポリペプチドまたはタンパク質骨格、例えばMUC6に由来するものの上での高Tn密度の達成を可能にする方法を記載することである。169アミノ酸のMUC6タンデム反復単位において、SerおよびThr残基(=潜在的O−グリコシル化部位)の総数は約83である。本発明は、MUC6またはMUC6由来骨格ほど複雑なポリペプチドまたはタンパク質骨格上での高グリコシル化率の達成を可能にする(下記実施例1を参照のこと)。
【0054】
本発明によれば、アポムチン骨格、例えばMUC6またはMUC6由来骨格中に含有されるSerおよびThr残基の総数の少なくとも40%が、少なくとも1つのN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)に直接的にO結合されることができる。
言い換えると、本発明のTnに基づくムチン複合糖質、例えば本発明のMUC6またはMUC6由来複合糖質中に含有されるTn抗原の全体の密度(または本発明の糖ポリペプチドの炭水化物密度)は、少なくとも40%である。
より好ましくは、GalNAc O結合SerおよびThr残基の前記総数は、少なくとも41%、なおより好ましくは少なくとも42%、さらにより好ましくは少なくとも43%、さらに好ましくは少なくとも45%である。
GalNAc O結合SerおよびThr残基の前記総数は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも51%、より好ましくは少なくとも52%、さらにより好ましくは少なくとも53%、なおさらにより好ましくは少なくとも55%、さらに好ましくは少なくとも57%であることさえできる。
本発明の方法はさらに、Tnに基づくムチン複合糖質、例えばMUC6またはMUC6由来複合糖質の産生を可能にし、ここで、GalNAc O結合SerおよびThr残基の総数は、少なくとも58%、より好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも61%、なおさらにより好ましくは少なくとも62%、さらに好ましくは少なくとも65%である。
例えば、下記実施例に記載されるMUC6またはMUC6由来ムチン−Tn糖ポリペプチドは、42%[MUC6−2:Tn(T1)]、54%[MUC6−2:Tn(MCF7)]、58%[MUC6−1:Tn(MCF7)]、および64%[MUC6−1:Tn(T1)]のTn密度(=GalNAc O結合SerおよびThr残基の%)を有する。
【0055】
本発明の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質は、好ましくは少なくとも1つのCTLエピトープをそのアポムチン骨格中に含む。
有利には、本発明のTnに基づくムチン複合糖質のアポムチン骨格中に含まれ得る前記アポムチンフラグメントまたはサブフラグメントは、少なくともCTLエピトープを保持している。
本発明によれば、好ましいタンデム反復単位フラグメントは、少なくとも1つのCTLエピトープを保持しているものである。
CTLエピトープは当業者によって、例えば予測サイトhttp://www.syfpeithi.de/Scripts/MHCServer.dll/EpitopePrediction.htmを使用して同定されることができる。
【0056】
図1Aに示す配列番号4のMUC6−1配列(Hisタグを有するMUC6−1)において、CTLエピトープは特に以下の配列:
− 38位〜46位(LVTPSTHTV;配列番号16)
− 66位〜74位(GTIPPPTTL;配列番号17)
− 73位〜81位(TLKATGSTH;配列番号18)
− 67位〜75位(TIPPPTTLK;配列番号19)
− 120位〜128位(EVTPTSTTT;配列番号20)
− 40位〜48位(TPSTHTVIT;配列番号21)
− 68位〜76位(IPPPTTLKA;配列番号22)
− 31位〜39位(GRGSSTSLV;配列番号23)
を含む。
【0057】
HisタグなしのMUC6−1配列(図10Aに示す配列番号9)、ならびに図1Aにおける配列番号6、配列番号7および配列番号15に示すMUC6配列において、これらのCTLエピトープは、それぞれ配列番号6、配列番号7および配列番号15の:
− 4位〜12位;
− 32位〜40位;
− 39位〜47位;
− 33位〜41位;
− 86位〜94位;
− 6位〜14位;
− 34位〜40位;
の範囲の配列に対応する。
【0058】
図1Aに示す配列番号5のMUC6−2配列(Hisタグを有するMUC6−2)において、CTLエピトープは特に以下の配列:
− 38位〜46位(LVTPSTHTV;配列番号16)
− 66位〜74位(GTIPPPTTL;配列番号17)
− 73位〜81位(TLKATGSTH;配列番号18)
− 67位〜75位(TIPPPTTLK;配列番号19)
− 40位〜48位(TPSTHTVIT;配列番号21)
− 68位〜76位(IPPPTTLKA;配列番号22)
− 31位〜39位(GRGSSTSLV;配列番号23)
を含む。
HisタグなしのMUC6−2配列(図10Bに示す配列番号12)において、これらのCTLエピトープは:
− 4位〜12位;
− 32位〜40位;
− 39位〜47位;
− 33位〜41位;
− 6位〜14位;
− 34位〜40位;
の範囲の配列に対応する。
【0059】
他の好ましい本発明のムチン複合糖質は、少なくとも1つのCTLネオエピトープを保有するものである。実際、糖タンパク質、糖ポリペプチドおよび糖ペプチドは1個または数個のMHCクラスII分子を結合することができ、そして炭水化物特異的なCTLを誘導することができる(Haurum et al. 1994, Aurum et al. 1999, Abdel-Motal et al. 1996, Apostolopoulos et al. 2003, Glithero et al. 1999, Speir et al. 1999, Xu et al. 2004)。
【0060】
本発明のTnに基づくムチン複合糖質は、有機物質、例えばタンパク質またはポリペプチドまたはペプチドまたは炭水化物であることができるが、アポムチンまたはアポムチンフラグメント(本明細書で定義する)またはTn抗原以外である、少なくとも1つの物質をさらに含んでもよい。
そのような別の物質は、特に前記Tnに基づくムチン複合糖質の産生における補助、および/またはサンプルにおけるその検出の補助、および/またはその生物学的効果の増加のために、実際有用であることが見出され、そして、当業者によって選択され得る。
前記Tnに基づくムチン複合糖質は、例えば、サンプルからのその精製のために有用であることができる少なくとも1つの物質、例えばHisタグ配列(例えば、配列番号4または配列番号5の最初の34個のN末端アミノ酸(図1Aを参照のこと))を含んでもよい。
前記Tnに基づくムチン複合糖質は、例えば、サンプル、特に生物学的サンプルにおける複合糖質の検出の助けとなる少なくとも1つの物質を含んでもよい。
前記Tnに基づくムチン複合糖質は、例えば、少なくとも1つの精製および/または検出タグを含んでもよい。
前記Tnに基づくムチン複合糖質は、例えば、宿主細胞からのその分泌のために有用であることができる少なくとも1つの物質、例えばシグナルペプチドを含んでもよい。
その生物学的効果を増加させるために、本発明のムチン複合糖質は、例えば、抗腫瘍剤である、および/または腫瘍細胞の標的化を補助する少なくとも1つの物質を含んでもよい。
本発明のムチン複合糖質は、直鎖状ペプチド骨格、環状ペプチド骨格、多価ペプチド骨格を有することができる。それらは脂質(パルミトイル残基として)、リジンデンドリマー(例えば、MAG骨格、EP 969 873を参照のこと)を含むことができる。
【0061】
本発明はタンパク質担体の非存在下で抗原性であるムチン複合糖質の産生を可能にするが、当業者はもちろん、特定の状況下で、Tnに基づくムチン複合糖質をそのようなタンパク質担体と結合させるかそうでなければ会合させることが適切であるかまたは助けになることを見出し得る。それゆえ、そのような担体結合複合糖質は、本発明の範囲内に含まれる。
しかし、本発明の好ましい実施態様は、本発明のTnに基づくムチン複合糖質がいかなるタンパク質担体(例えば、KLH)も含まないことである。
【0062】
本発明はまた、前記直接的にO結合されたGalNAc以外の少なくとも1つの他の炭水化物基の付加によって、本発明のTnに基づくムチン複合糖質から誘導することができるムチン複合糖質に関する。
Tnに基づくムチン複合糖質は、より特定すると、前記直接的にO結合されたGalNAc部分の少なくとも1つに結合された少なくとも1つの炭水化物部分を含んでもよい。
【0063】
そのような誘導可能なムチン複合糖質は、特に、ムチン−sTn複合糖質(例えば、ムチン−sTn糖ポリペプチド複合体)、およびムチン−T複合糖質(例えば、ムチン−T糖ポリペプチド複合体)を含む。
【0064】
実際、シアリルトランスフェラーゼは、Tn抗原をシアリル基を用いて伸張して、シアロシル−Tn、またはシアリル−Tn、(sTn)抗原(NeuAc−α(2−6)−GalNAc−α−O−Ser/Thr)を形成し得る。この抗原の発現は、発ガンの過程の間に頻繁に誘導される。
【0065】
T(またはTF、Thomsen-Friedenreich)抗原は、タンパク質にO結合されたムチン二糖:Gal−β1,3−GalNAc−α1,O−Ser/Thrによって定義される。Tn(T陰性)抗原はGalNAc−α1,O−Ser/Thrである。従って、Tnのβ1,3−ガラクトシル化がTエピトープを生じる。
従って、本発明は、ムチン−T複合糖質への直接的な接近を提供する。これは、本明細書に記載されるTnに基づくムチン複合糖質の(少なくとも1つの)β1,3−ガラクトシル化によって得られる。
【0066】
従って、前記少なくとも1つの他の炭水化物基は:
− シアリル基(シアリル−Tn)、例えばNeu5Ac(N−アセチルノイラミン酸)、Neu5Gc(N−グリコリルノイラミン酸)、KDN、またはそれらの直接的な誘導体、例えば、Neu2en5Ac、Neu2en5Gc、KDN2en;または
− Gal
を含んでもよくまたはそれであってもよい。
【0067】
従って、前記少なくとも1つの他の炭水化物基は:
− シアリル基(シアリル−Tn)、例えばNeu5Ac(N−アセチルノイラミン酸)、Neu5Gc(N−グリコリルノイラミン酸)、KDN、またはそれらの直接的な誘導体、例えば、Neu2en5Ac、Neu2en5Gc、KDN2en;
− N−アセチルマンノサミン(ManNAc)、
− Gal、または
− 特に抗腫瘍適用のために、当業者が適切であることを見出し得る任意の炭水化物基、例えば、糖脂質、特にグリコシド抗原(酸性糖脂質、例えば、ガングリオシドGD2、GD3およびGM3(メラノーマ)ならびに中性糖脂質、例えば、Lewis.sup.y(Le.sup.y)(乳房、前立腺、卵巣)およびGlobo H(乳房、前立腺、卵巣)抗原を含む)
を含んでもよくまたはそれであってもよい。
【0068】
本発明は、より特定すると、前記少なくとも1つのGalNAc結合炭水化物部分がGalNAc部分、シアリル基、またはガラクトース部分であるTnに基づくムチン複合糖質に関する。
【0069】
本発明のTnに基づくムチン複合糖質は、その骨格中に1つより多いアポムチン、またはアポムチンフラグメントもしくはサブフラグメントを含んでもよい。そのようなTnに基づくムチン複合糖質は、様々な腫瘍病理学の予防的および/または対症的および/または治癒的処置へ適用されるという利点を有する。
【0070】
従って、本発明のTnに基づくムチン複合糖質は:
−少なくとも2つのアポムチン、および/または
−少なくとも2つの本明細書において定義する(上記iiを参照のこと)フラグメント、および/または
−少なくとも2つの本明細書中iiiにおいて定義するサブフラグメント、および/または
−少なくとも1つのアポムチン、および少なくとも1つの本明細書中iiにおいて定義するフラグメント、および/または
−少なくとも1つのアポムチン、および少なくとも1つの本明細書中iiiにおいて定義するサブフラグメント、および/または
−少なくとも1つの本明細書中iiにおいて定義するフラグメント、および少なくとも1つの本明細書中iiiにおいて定義するサブフラグメント
の配列を含むアポムチン骨格を有してもよい。
有利には、前記アポムチン骨格中に含有される2つのエレメントの各々は異なるアポムチン、好ましくは異なるムチングループ(例えば、MUC6およびMUC3、MUC6およびMUC4、MUC6およびMUC5、MUC3およびMUC4、MUC3およびMUC5、MUC4およびMUC5)のアポムチンに由来する。
【0071】
前記アポムチン骨格中に含有される前記少なくとも2つのフラグメント、および/または前記少なくとも2つのサブフラグメント、および/または前記少なくとも1つのフラグメントおよび少なくとも1つのサブフラグメントの各々は、好ましくは異なるアポムチンのフラグメントまたはサブフラグメントである。
【0072】
有利には、前記アポムチン骨格は、少なくとも2つのアポムチンタンパク質、および/または少なくとも2つの本明細書中iiにおいて定義するフラグメント、および/または少なくとも2つの本明細書中iiiにおいて定義するサブフラグメントのアミノ酸配列を含む。
好ましくは、前記少なくとも2つのフラグメントまたはサブフラグメントの各々は、異なるアポムチン、さらに好ましくは異なるムチングループ(例えば、MUC6およびMUC3、MUC6およびMUC4、MUC6およびMUC5、MUC3およびMUC4、MUC3およびMUC5、MUC4およびMUC5)のアポムチンのフラグメントまたはサブフラグメントである。
非常に有利な実施態様によれば、前記少なくとも2つのフラグメントの各々の配列は、アポムチンタンパク質のタンデム反復単位配列である。
【0073】
本発明はまた、Tnに基づくムチン複合糖質の産生のための方法を提供する。
本発明の方法は、in vitroでの酵素的合成である。
従って、本発明は、Tnに基づくムチン複合糖質のin vitro産生の方法に関する。これは、タンパク質担体の非存在下で、ヒト腫瘍細胞、例えばJurkat細胞を認識する抗体、より特定するとIgGおよび/またはIgA抗体を誘導することができるTnに基づくムチン複合糖質の産生を可能にする。非常に有利な特徴として、本発明の方法は、そのようなTnに基づくムチン複合糖質の少なくとも半調製規模の量(100μgより多く、好ましくはmg量)での産生を可能にする。
本発明の方法は、少なくとも1つのN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)を、タンパク質またはポリペプチドまたはペプチドアクセプター中に含有されるSerまたはThr残基上にin vitroで転移することを含む。ここで、前記in vitroでの転移は、少なくとも1つのUDP−N−アセチルガラクトサミン:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(ppGalNAc−T)を使用して酵素的に行われる転移である。
本発明の方法は、インタクトな細胞の活性を必要とせず;インタクトな細胞の存在を必要としない。
本発明の方法の実施の結果、前記アポムチン骨格のSerまたはThr残基に直接的にO結合される炭水化物部分の各々がGalNAc部分となる。
【0074】
前記タンパク質またはポリペプチドまたはペプチドアクセプターは、有利には、本明細書において定義するアポムチン骨格、すなわち、アポムチンタンパク質、または少なくとも1つのタンデム反復単位を保持しているアポムチンフラグメント、またはアポムチンタンデム反復単位の少なくとも15個のアミノ酸、好ましくは少なくとも20個のアミノ酸のフラグメントを保持しているアポムチンサブフラグメントである。
好ましくは、前記フラグメントまたはサブフラグメントは、ヒト腫瘍細胞、例えばJurkat細胞を認識する抗体、より特定するとIgGおよび/またはIgA抗体を誘導する前記能力を保持している保存的フラグメントである。
【0075】
前記タンパク質またはポリペプチドまたはペプチドアクセプターは、有利には、アポムチンタンパク質、またはアポムチンフラグメントもしくはサブフラグメントの保存的変異体であることができ、前記保存的変異体は、少なくとも1つのヒト腫瘍細胞、例えばJurkat細胞を認識する抗体、より特定するとIgGおよび/またはIgA抗体を誘導する前記能力を保持している。
【0076】
前記タンパク質またはポリペプチドまたはペプチドアクセプターは、有利には、少なくとも2つのアポムチンタンパク質、および/または少なくとも2つのアポムチンフラグメントおよび/またはサブフラグメントおよび/または変異体を含む、合成または組換え産生されたアポムチン骨格であることができる。
前記少なくとも2つのアポムチンタンパク質および/またはフラグメントおよび/またはサブフラグメントおよび/または変異体の各々は、同一の配列または異なる配列を有することができる。
【0077】
前記少なくとも2つのアポムチンタンパク質および/またはフラグメントおよび/またはサブフラグメントの各々は、同じムチングループ(例えば、MUC6、またはMUC3、またはMUC4、またはMUC5)に由来することができる。
前記少なくとも2つのアポムチンタンパク質および/またはフラグメントおよび/またはサブフラグメントの各々は、異なるムチングループ(例えば、MUC6およびMUC3、MUC6およびMUC4、MUC6およびMUC5、MUC3およびMUC4、MUC4およびMUC5、MUC3およびMUC5)に由来することができる。従って、前記少なくとも2つのアポムチンタンパク質は、異なるムチングループに属するムチンのアポムチンであることができる。前記少なくとも2つのアポムチンフラグメントまたはサブフラグメントは、異なるムチングループに属するムチンのアポムチンフラグメントまたはサブフラグメントであることができる。
【0078】
本発明の方法においてタンパク質またはポリペプチドまたはペプチドアクセプターとして使用されるタンパク質またはポリペプチドまたはペプチド骨格は、本発明のTnに基づくムチン複合糖質のタンパク質またはポリペプチドまたはペプチド骨格と同じ特徴を有する。
本発明の産物に与えられる特徴は本発明の方法に適用される。
【0079】
今日までに、15個のppGalNAc−Tが哺乳動物において同定されており、そしてファミリーの各メンバーの機能的プロフィールが確立されており、これらの酵素が異なる基質特異性のみならず特異的組織発現パターンも有していることが示されている(Cheng et al. 2004, Ten Hagen et al. 2003)。
本発明によれば、適切なppGalNAc−Tは、特に、腫瘍病理学に関与するものを含む。
有利なppGalNAc−Tは、ppGalNAc−T1、ppGalNAc−T2、ppGalNAc−T3、ppGalNAc−T6、ppGalNAc−T7、およびppGalNAc−T13から選択される腫瘍関連ppGalNAc−Tを含む。
非常に有利なppGalNAc−Tは、ppGalNAc−T1、ppGalNAc−T3、ppGalNAc−T6、ppGalNAc−T7、およびppGalNAc−T13から選択される腫瘍関連ppGalNAc−Tを含む。
【0080】
前記少なくとも1つのppGalNAc−Tを、純粋なもしくは精製された形態で、または細胞抽出物の形態で提供することができる。
【0081】
前記少なくとも1つのppGalNAc−Tを、ガン細胞の酵素含有抽出物、例えばミクロソーム抽出物、またはタンパク質抽出物を提供することによって、またはそのような抽出物から精製されたppGalNAc−Tを提供することによって、提供することができる。
当業者が適切であることを見出し得る任意のガン細胞を使用することができる。
好ましいガン細胞は、乳ガン細胞、例えば乳ガン細胞株MCF7(ATCC番号HTB−22)、結腸、肺、卵巣、前立腺ガン細胞を含む。
【0082】
前記少なくとも1つのppGalNAc−Tは、組換え産生されたppGalNAc−T、例えば遺伝子操作された酵母細胞、例えばピキア・パストリス(Pichia pastoris)株(例えば、Invitrogenから入手可能なKM71H株)、またはバキュロウイルスベクターによって感染された昆虫細胞による発現およびそれからの精製によって得られるppGalNAc−Tであることができる。
【0083】
前記in vitro転移は、有利には、GalNAc転移の最大数に適したppGalNAc−T量、UDP−GalNAc量、およびインキュベーション時間の条件下で行われる。実際、最高のグリコシル化レベルを有するムチン複合糖質は、最高の免疫応答を与えそうに思われ、それゆえワクチン、特に抗腫瘍ワクチンの産生のために非常に有利な活性物質である。
【0084】
MUC6アポムチン(169aaのタンデム反復単位を有する)ほど複雑なアポムチン骨格のためには、そのような至適条件は、特に、前記アポムチン10μg当たり、少なくとも0.1μgの量の前記ppGalNAc−T、またはそのようなppGalNAc−Tを含有する細胞抽出物を提供することによる前記少なくとも1つのppGalNAc−Tの提供を含む。
前記アポムチン10μg当たりのppGalNAc−TまたはそのようなppGalNAc−Tを含有する細胞抽出物の前記量は、好ましくは少なくとも0.2μg、さらに好ましくは少なくとも0.3μg、より好ましくは少なくとも0.4μg、なおより好ましくは少なくとも0.5μg、例えば2μg未満、好ましくは1.5μg未満、さらに好ましくは1μg以下である(これらの値の組み合わせから生じる任意の数値範囲が本明細書において明示的に包含される)。
所望であれば、いくつかのppGalNAc−T(好ましくはその混合物)を使用することができる。
【0085】
MUC6アポムチンほど複雑なアポムチン骨格のためには、そのような至適条件は、特に、前記少なくとも1つのGalNAcの、潜在的O−グリコシル化部位に比較してUDP−GalNAc0.5〜2当量のモル当量での提供を含んでもよい。
【0086】
インキュベーション時間は反応物(アポムチンまたはアポムチンフラグメント、ppGalNAc−T、UDG−GalNAc)の量に依存する。
インキュベーション時間は少なくとも10時間、好ましくは少なくとも20時間、例えば少なくとも24時間であることができる。
【0087】
反応物、例えばUDP−GalNAcおよびppGalNAc−Tを、さらに反応の過程の間に、例えば24時間の反応の後に添加することができる。
【0088】
前記GalNAc転移を、当業者に公知の任意の手段、例えばHPLCによってモニタリングすることができる。
本発明の非常に有利な特徴によれば、前記GalNAc転移はSELDI−TOF質量分析によってモニタリングされる。
SELDI−TOFは表面増強レーザ脱離/イオン化飛行時間である。
反応混合物が複雑な組成を有する場合(特に、1個または数個の反応物が生物学的抽出物、例えば1個または数個のppGalNAc−Tを含有する細胞抽出物として提供される場合)にSELDI−TOF質量分析は特に有利である。
【0089】
本発明者らの知る限り、特に混合物が複雑な組成を有する場合に、SELDI−TOF(表面増強レーザ脱離/イオン化飛行時間)質量分析を使用して、ムチン上のコンジュゲーションをモニタリングするのは、これが最初である。
従って、本出願はまた、細胞抽出物を含有する混合物におけるGalNAcバイオコンジュゲーションの過程をモニタリングするための、SELDI−TOF質量分析の使用に関する。
【0090】
GalNAc転移が所望のレベルに達すると、所望であればそして/または必要であれば、得られるTnに基づくムチン複合糖質を反応混合物から精製することができる。
精製を、例えば、アフィニティカラムで(例えば、複合糖質がHisタグ付加されている場合は、Ni-NTAアガロース(Qiagen、Hilden、Germany)上の吸着)および/または逆相HPLCによって行うことができる。
例えば、得られる複合糖質を、Ni-NTAアガロース(Qiagen、Hilden、Germany)を使用して精製し、次いでPerkin-Elmerポンプシステムを230nmのUV検出器とともに使用する逆相HPLCに供することができる。カラムはSymmetry 300(商標)C18(5μm、300Å、3.9×250mm)(Waters、France)であることができる。溶出を、流速1mL/分(30分間にわたる)での水中0.1%トリフルオロ酢酸中10〜60%アセトニトリルの直線勾配を用いて行うことができる。次いで、ピークを集めそして凍結乾燥することができる。次いで、このようにして得られる糖タンパク質を、AAAおよび質量分析によって特徴付けしてもよい。
【0091】
下記の実施例1および2によって説明するように、至適GalNAc条件下でMUC6アポムチンフラグメントに対して本発明者らが行った全てのアッセイにおいて、出発ポリペプチドは全て複合糖質に変換された(100%)。それゆえ、本発明の方法は、非常に高い産生効率を有する。
本発明者らの知る限り、Tnグリコシル化組換えポリペプチドが半調製量で、少なくとも1つのppGalNAc−Tの使用によって得られるのは、これが最初である。
【0092】
本発明の方法を任意の所望のGalNAc転移%まで行うことができる。上記のように、コンジュゲーション反応をモニタリングするためにSELDI−TOF質量分析が好適に使用される。
本発明の方法の有利な特徴は、それが、Tn抗原の高い全体密度(=高炭水化物密度)を有するTnに基づくムチン複合糖質の産生を可能にすることである。
グリコシル化すべき骨格が少数のSerおよびThr残基を有する場合、もちろん非常に高いGalNAc転移率、例えば少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、なおより好ましくは少なくとも98%、さらにより好ましくは少なくとも99%、例えば100%を達成することができる。
【0093】
本発明の有利な特徴は、それがさらに、複雑なポリペプチド骨格、例えばMUC6由来のものの上での高Tn密度の達成を可能にすることである。MUC6タンデム反復単位において、SerおよびThr残基(=潜在的なO−グリコシル化部位)の総数は約83である。
本発明によれば、アポムチン骨格、例えばMUC6、MUC6由来アポムチン骨格中に含有されるSerおよびThr残基の総数の少なくとも40%が、少なくとも1つのN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)に直接的にO結合されることができる。
【0094】
より好ましくは、GalNAc部分に直接的にO結合されるSerおよびThr残基の数は、少なくとも41%、なおより好ましくは少なくとも42%、さらにより好ましくは少なくとも43%、より好ましくは少なくとも45%である。
前記GalNAc O結合SerおよびThr残基の数は、SerおよびThr残基の総数の少なくとも50%、好ましくは少なくとも51%、より好ましくは少なくとも52%、さらにより好ましくは少なくとも53%、なおさらにより好ましくは少なくとも54%、さらに好ましくは少なくとも57%であることさえできる。
本発明の方法はさらに、GalNAc O結合SerおよびThr残基の数が、SerおよびThr残基の総数の少なくとも58%、より好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも61%、なおさらにより好ましくは少なくとも62%、さらに好ましくは少なくとも64%である、Tnに基づくムチン複合糖質の産生を可能にする。
上記のGalNAc%値からの2つの異なる値の組み合わせから生じる各々の%範囲が本発明によって明示的に包含される。
【0095】
本出願はまた、本発明の方法によって得られるTnに基づくムチン複合糖質に関する。
【0096】
本発明はまた、本発明のTnに基づくムチン複合糖質のアポムチンをコードする任意の核酸に関する。
前記コード配列は、例えば、配列番号6、配列番号7、配列番号15のアポムチンポリペプチドフラグメントをコードすることができる(図1Aを参照のこと)。
前記コード配列は、例えば、配列番号9または配列番号12のアポムチンポリペプチドフラグメントをコードすることができる(図10Aおよび10Bを参照のこと)。前記コード配列は、配列番号8または配列番号11の配列であることができる(図10を参照のこと)。
前記核酸はさらに、前記Tnに基づくムチン複合糖質コード配列の3’末端に終止コドンを含んでもよい。
前記核酸はさらに、精製および/または検出タグ、例えばHisタグをコードする配列を含む。例えば、前記核酸は、配列番号4または配列番号5のHisタグ付加アポムチンポリペプチドフラグメントをコードすることができ(図1Aを参照のこと);それは例えば配列番号10または配列番号13の配列であってもよい(図10Aおよび10を参照のこと)。
前記核酸は、リーダー配列(シグナルペプチドをコードする)をさらに含んでもよい。
【0097】
本発明はまた、少なくとも1つの本発明の核酸を含む任意のベクター、例えば複製起点、および少なくとも1つの本発明の核酸を含むプラスミドに関する。
好ましくは、前記ベクターは発現ベクターである。
【0098】
本発明はまた、遺伝子操作の結果本発明によるTnに基づくムチン複合糖質を発現する、および/または本発明による少なくとも1つの核酸および/または本発明による少なくとも1つのベクターを含むように遺伝子操作されている任意の遺伝子操作された宿主細胞に関する。
そのような宿主細胞は、トランスフェクションされた宿主細胞、感染された宿主細胞、形質転換された宿主細胞であることができる。
そのような宿主細胞は、当業者が適切であることを見出し得る任意の宿主細胞であり得る。それは、例えば真核細胞(例えば、酵母、または哺乳動物細胞)、または原核細胞(例えば、E.coli)、またはバキュロウイルスによって感染された昆虫細胞であることができる。
本発明の有利な宿主細胞は、特に、ブダペスト条約の条件に従って2005年8月10日に寄託番号CNCM I−3491および寄託番号CNCM I−3492の下に寄託されたE.coli宿主細胞を含む。
【0099】
従って、本発明はまた、本発明による宿主細胞によって発現される任意のTnに基づく複合糖質、例えば配列番号9または配列番号12のTnに基づくムチン複合糖質に関する(図10Aおよび10Bを参照のこと)。
【0100】
本発明はまた、少なくとも1つのTnに基づくムチン複合糖質、および少なくとも1つのムチン、アポムチン、アポムチンフラグメント(本明細書で定義する)、Tn抗原、または炭水化物以外の物質を含む任意の化合物に関する。
本発明は、より特定すると、以下:
− 少なくとも1つの本発明によるTnに基づくムチン複合糖質、および
− 少なくとも1つの免疫グロブリン構造、または少なくとも1つの免疫グロブリンフラグメントであって、Fcフラグメント、Fvフラグメント、Fabフラグメント、F(ab)’2フラグメント、軽鎖、または重鎖である免疫グロブリンフラグメント
を含む可溶性免疫複合体に関する。
上記免疫複合体中に含有されるアポムチンフラグメントは、有利には、MUC6のアポムチンのフラグメント、特にMUC6アポムチンのポリペプチドフラグメント(可溶性MUC6−Tn免疫複合体)であることができる。
【0101】
in vivo投与に際して、本発明によって利用可能になるムチン複合糖質は、ヒト腫瘍細胞をTn依存性機構を通して認識することができる抗体、より特定するとIgG抗体を誘導することができるという有利な特徴を有する。
IgG誘導は、免疫原性組成物または免疫原性薬物、およびワクチンが意図される場合、特に有用な特徴である。なぜなら、抗体依存性細胞傷害(ADCC)は、特に腫瘍または前腫瘍細胞に対する、効率的な免疫応答を得るために高度に有用であるからである。従って、IgG誘導をすることができるという特徴は、本発明のムチン複合糖質、より特定するとムチン糖ポリペプチド複合体の非常に有利な特徴である。
【0102】
別の非常に有利な特徴として、本発明のムチン複合糖質はまた、タンパク質担体の非存在下で、そのような抗体(IgGを含む)の誘導をすることができる。それゆえ、免疫原性効率は、先行技術のムチン複合糖質と比較して改善される。
また、必要とされるタンパク質担体の非存在は、特に人間への投与が意図される場合に非常に有利である。
【0103】
従って、本出願は腫瘍細胞が関与する状態または疾患、例えば特にガン性または前ガン性状況または状態の予防および/または寛解および/または処置に関する。
【0104】
本発明の予防および/または寛解および/または処置の方法は、それを必要とする患者への本発明の産物の投与を含む。
【0105】
本発明はまた、そのような予防および/または寛解および/または処置のために意図されるアジュバント、組成物、医薬組成物、免疫原性組成物、薬物、免疫原性薬物、およびワクチンに関する。
本発明のアジュバント、組成物、医薬組成物、免疫原性組成物、薬物、免疫原性薬物、およびワクチンは、少なくとも1つの本発明の産物、すなわち以下の要素:
− 本発明によるTnに基づくムチン複合糖質、
− 本発明による核酸、
− 本発明によるベクター、
− 本発明よる遺伝子操作された宿主細胞、
− 本発明による可溶性免疫複合体、
− 本発明によるTnに基づくムチン複合糖質
の少なくとも1つを含む。
【0106】
本発明のアジュバント、組成物、医薬組成物、免疫原性組成物、薬物、免疫原性薬物、およびワクチンは、少なくとも1つの薬学的および/または生理学的に許容可能なビヒクル(担体、希釈剤、賦形剤、添加剤、pH調整剤、乳化剤または分散剤、保存剤、界面活性剤、ゲル化剤、ならびに緩衝化剤および他の安定化剤および可溶化剤など)をさらに含んでもよい。
【0107】
適切な薬学的に許容可能なビヒクルおよび製剤は、全ての公知の薬学的に許容可能なビヒクルおよび製剤、例えば"Remington: The Science and Practice of Pharmacy", 20th edition, Mack Publishing Co.;および"Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems", Ansel, Popovich and Allen Jr., Lippincott Williams and Wilkinsに記載されるものを含む。
【0108】
一般に、担体の性質は用いられる特定の投与様式に依存する。例えば、非経口製剤は通常、1つ以上の造影剤に加えて、薬学的および生理学的に許容可能な液体(水、生理食塩水、平衡塩類溶液、緩衝液、ブドウ糖水溶液、グリセロール、エタノール、ゴマ油、それらの組み合わせなどを含む)をビヒクルとして含む注射用液体を含む。媒質はまた、通常の医薬補助材料、例えば、浸透圧を調整するための薬学的に許容可能な塩、緩衝剤、保存剤などを含んでもよい。担体および組成物は無菌であることができ、そして製剤は投与様式に適する。
【0109】
固体組成物(例えば、散剤、丸剤、錠剤またはカプセル形態)については、従来の無毒性固体担体は、例えば、医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、またはステアリン酸マグネシウムを含むことができる。生物学的に中性の担体に加えて、投与すべき医薬組成物は、少量の補助物質、例えば湿潤剤もしくは乳化剤、保存剤、およびpH緩衝化剤など、例えば酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウラートを含有することができる。
【0110】
組成物は液体溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、丸剤、カプセル、徐放性製剤、または散剤であることができる。組成物は、従来の結合剤および担体、例えば、トリグリセリドを用いて処方することができる。
【0111】
本出願は、より特定すると、本発明の免疫原性組成物、免疫原性薬物、およびワクチンに関する。本発明の免疫原性組成物、免疫原性薬物、およびワクチンを治療および/または予防において使用することができる。
従って、本明細書において用語ワクチンは治療用および予防用ワクチンを包含する。
本発明の免疫原性組成物、免疫原性薬物、およびワクチンは、腫瘍または前腫瘍状況または状態の処置および/または予防および/または寛解のために意図され得る。
従って、本発明は、特に、本発明の抗腫瘍免疫原性組成物、抗腫瘍免疫原性薬物、および抗腫瘍ワクチンに関する。
本発明において、用語「腫瘍」は「ガン」を包含することを意味する。
そのような腫瘍状況または状態は、特に、任意の型のガン腫、腺腫、腺ガン、化生、または任意の型のガン、より特定すると、肺、乳房、腸管が罹患するかまたは罹患することができる腫瘍状況または腫瘍状態、なおより特定すると人間が罹患するかまたは罹患することができる腫瘍状況または腫瘍状態、例えば:
− バレット腺ガン、
− 腸ガン腫および腺腫、
− 肺ガン腫、
− 直腸結腸ポリープ、
− 乳ガン腫、
− 膵臓、腎臓、胃、前立腺、卵巣、胆管ガン
を含む。
【0112】
ATCCは、American Type Culture Collection ATCC; P.O. Box 1549; Manassas, VA 20108; U.S.A. である(http://www.lgcpromochem-atcc.com参照)。
CNCMは、Collection Nationale de Cultures de Microorganismes; Institut Pasteur; 25, rue du Docteur Roux; F-75724 PARIS CEDEX 15 ; Franceである(http://www.pasteur.fr/recherche/unites/Cncm/参照)。
【0113】
用語「含む(comprising)」は「含む(including)」または「含有する(containing)」と同義であって、開かれており、そして追加の、記載されていない要素、成分または方法工程を排除せず、一方用語「からなる」は閉ざされた用語であって、明示して記載されていないいかなる追加の要素、工程、または成分も排除する。
用語「本質的にからなる」は部分的に開かれた用語であって、追加の要素、工程または成分が発明の基本的かつ新規な特性に著しくは影響しない限り、追加の、記載されていない要素、工程、または成分を排除しない。
従って、用語「含む」は用語「からなる」および用語「本質的にからなる」を含む。従って、本出願において、用語「含む」は、用語「からなる」および用語「本質的にからなる」をより特定して包含することを意味する。
【0114】
本明細書において引用する全ての参考文献の関連する開示の各々を具体的に本明細書に参照により組み入れる。以下の実施例は例示のために与えられるのであって、限定のためではない。
【0115】
実施例
実施例1:抗腫瘍ワクチン接種のためのMUC6−Tn複合糖質の酵素的大規模合成
要旨
ガンにおいて、ムチンは異常にO−グリコシル化されており、その結果それらは腫瘍関連抗原、例えばTn決定基(α−GalNAc−O−Ser/Thr)を発現する。それらはまた、正常組織と比較して異なる発現のパターンを示す。特に、MUC6は正常には胃組織においてのみ発現されるが、腸、肺、結腸直腸および乳ガン腫において検出されている。最近、本発明者らの研究室は、MCF7乳ガン細胞株がMUC6−Tn糖タンパク質をin vivoにおいて発現することを示した。ガン関連ムチンは、正常ムチンとの抗原性の相違を示し、それでそれらは免疫療法の潜在的な標的として使用され得る。Tn抗原に基づいた抗ガンワクチンを開発するために、本発明者らはいくつかのMUC6−Tn複合糖質を調製した。この目的のために、本発明者らは、in vivoにおいてTn抗原合成を触媒するUDP−N−アセチルガラクトサミン:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(ppGalNAc−T)を使用することによって、E.coliにおいて発現された2つの組換えMUC6タンパク質へのGalNAcの酵素的転移を行った。本発明者らは、MCF7乳ガン細胞抽出物由来のppGalNAc−Tの混合物または組換えppGalNAc−T1を使用した。両方の場合に、本発明者らは半調製規模(mg量)でのMUC6−Tn複合糖質の合成を達成した。これらの糖タンパク質は高レベルのTn抗原を示したが、全体の密度は酵素供給源およびタンパク質アクセプターの両方に依存する。これらのMUC6−Tn複合糖質は、ヒトガン細胞に特異的な2つの抗Tnモノクローナル抗体によって認識された。さらに、ppGalNAc−T供給源としてMCF7抽出物を使用してグリコシル化されたMUC6−Tn複合糖質は、ヒト腫瘍細胞株を認識するIgG抗体を誘導することができた。結論として、腫瘍関連グリコフォームを有するMUC6の多量の産生は、有効な抗ガンワクチンの開発を大いに有望にし、そしてそれらの免疫学的特性のさらなる研究が保障される。
【0116】
緒言
本実施例において、本発明者らは、ガン細胞のグリコシル化をより良く模倣するために、組換えppGalNAc−T1またはppGalNAc−Tを含有するMCF7乳ガン細胞由来のミクロソーム抽出物を使用した。
本発明者らは、MUC6−Tn複合糖質の調製のための本発明のin vitroでの酵素的方法(ppGalNAc−Tを使用することによる、ムチンのセリンおよびトレオニン残基上へのin vitroでのGalNAcの酵素的転移)が非常に効率的であり、そして高炭水化物密度を有する半調製量の様々なMUC6−Tn複合糖質の調製を可能にすることを示す。得られたMUC6複合糖質は、ヒトガン細胞に特異的な2つの抗Tnモノクローナル抗体(mAb)による認識によって判断したところ、抗原性であることが示された。さらに、ppGalNAc−T供給源としてMCF7抽出物を使用してグリコシル化されたMUC6−Tn複合糖質は、ヒト腫瘍細胞株を認識するIgG抗体を誘導することができた。
【0117】
結果
E.coliにおけるMUC6組換えタンパク質産生およびTn発現MUC6ムチンの酵素的合成
半調製量のTn発現MUC6糖タンパク質を得るために、本発明者らは、MCF7乳ガン細胞株からクローニングし、そして:
− 全体のタンデム反復単位(MUC6−1;配列番号4のタンパク質配列、ここで最初のN末端34aaはHisタグ配列であり、そして続く169aaはMUC6タンデム反復単位の配列である)、または
− 半分のタンデム反復(MUC6−2;配列番号5のタンパク質配列、ここで最初のN末端34aaはHisタグ配列であり、そして続く85aaは半分のMUC6タンデム反復単位の配列である)
を含有する2つの組換えMUC6タンパク質を設計した;
図1Aを参照のこと。
【0118】
異なる数の潜在的O−グリコシル化部位を有する(MUC6−1については85個、MUC6−2については48個)異なる大きさの2つの関連するタンパク質のグリコシル化を研究するために、これら2つの異なる構築物を選択した。わずかなアミノ酸変化が2つのクローニングされたMUC6 cDNAおよび報告された胃組織からクローニングされたMUC6 cDNA(配列番号6および配列番号7はTR1およびTR2と一致)(Toribara et al. 1993)の間で検出された(図1A中のアラインメントを参照のこと)。このことは、ムチンタンデム反復において見出される高い多型に起因し得る。
MUC6−1およびMUC6−2ポリペプチドをE.coliにおいて発現させ、そしてNi-NTAアガロースを使用して精製した(図1BおよびC)。
MUC6−1を産生するE.coliクローンおよびMUC6−2を発現するE.coliクローンは2005年8月10日にCNCMにそれぞれアクセッションナンバーI−3491およびI−3492の下に寄託されている。
MUC6−1については、C18カラムを使用した1つの追加の精製工程が必要であった(図1B)。その結果、精製MUC6−1およびMUC6−2タンパク質が、>95%の純度レベルで(HPLCによって評価)、培地1リットル当たりそれぞれタンパク質2mgおよび3.4mgの収率で得られた。
これらの精製ムチンタンパク質(MUC6−1またはMUC6−2)を、組換えbppGalNAc−T1またはMCF7細胞抽出物を使用することによって、UDP−GalNAcからのin vitroトランスグリコシル化反応に供した(図6)。反応を、分析規模で、様々な条件下で(インキュベーション時間、UDP−GalNAc当量および酵素量)行った。転移の過程を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および表面増強レーザ脱離/イオン化飛行時間質量分析(SELDI−TOF MS)によってモニタリングし、そして最も高いTn密度を与える反応パラメーターを選択した(下記実施例2を参照のこと)。MUC6−Tnの半調製規模の合成(約0.3〜3mg)を行うためにこれらの条件(下記表1を参照のこと)を使用した。
【0119】
【表2】

【0120】
上記表1において:
1:当量を全潜在的O−グリコシル化部位(すなわち、全セリンおよびトレオニン残基)に比較して表す
2:単離産物収率は、グリコシル化反応および得られた糖タンパク質の精製の後に得られた収率を指す。MUC6−Tn複合糖質をエンドトキシンレベルについて試験し、そしてそれは全ての場合で2EU/mg糖タンパク質より低いことが見出された
3:複合糖質の平均分子量およびGalNAc数を中央ピークから算出した
4:得られたグリコシル化された部位の%を、タンパク質中のセリンおよびトレオニン残基の総数(MUC6−1については85、MUC6−2については48)(100%)に比較しての各複合糖質について得られたGalNAc数を考慮して算出した
5:同量のUDP−GalNAc当量および酵素を反応の開始時、次いで24時間目に添加した
【0121】
同じグリコシル化反応条件に再び供した後に、精製MUC6−Tn複合糖質はさらにグリコシル化されなかったので、最大のGalNAc転移が達成された。得られた糖タンパク質をHPLCによって分析し(図2Aおよび2B)、精製し、次いでSELDI−TOF MSによって特徴付けした(図2Cおよび2D)。全てのアッセイにおいて、出発タンパク質は全て複合糖質に変換された。SELDI−TOF MSプロフィールは、タンパク質の異なるGalNAcグリコシル化レベルを示した(主要ピーク±3個のGalNAc)(図2Cおよび2D)。同様の多分散が、タンパク質アクセプターおよび使用した酵素供給源にかかわらず、粗混合物および精製複合糖質について観察された。
【0122】
合成した複合糖質の物理化学的特徴付け
4つの異なるMUC6複合糖質を、この酵素的トランスグリコシル化によって合成し、そしてNi-NTAアガロースおよびHPLCによって精製した。次いで、それらをSDS−PAGE分析に供し(図3)、予想分子量における精製糖タンパク質の存在を確認した。MUC6糖タンパク質は、ムチン骨格および使用した異なるppGalNAc−T供給源に依存して異なるTn含量を示した(表1)。MCF7乳ガン細胞抽出物を使用した場合、アクセプターとして使用したムチンにかかわらず、平均54〜58%の潜在的O−グリコシル化部位がグリコシル化された(全分子量の30〜32%に相当)。ムチンタンパク質を精製bppGalNAc−T1によってグリコシル化した場合、異なるTn密度が得られた。MUC6−2はより少なくグリコシル化された(20個のGalNAc、全O−グリコシル化部位の42%に相当)。他方、MUC6−1は、潜在的O−グリコシル部位の64%がグリコシル化されたので(54個のGalNAc)、bppGalNAc−T1によってずっとより多くグリコシル化された。
【0123】
MUC6−Tn複合糖質は抗Tn−mAbによって認識される
MUC6糖タンパク質を抗Tn(83D4)および抗His mAbを使用するウエスタンブロッティングによって同定した(図4)。予想した通り、抗His mAbは全てのMUC6タンパク質(非グリコシル化MUC6を含む)を認識した(図4A)。反対に、抗Tn mAb 83D4はMUC6−Tn複合糖質を認識するのみであった(図4B)。
これらのMUC6複合糖質の抗原性を、ヒトガン細胞に対して惹起された2つの抗Tn mAb(MLS128および83D4)およびポリクローナル抗MUC6血清を使用するELISAによって分析した。図4C〜Dは両方の抗Tn mAbが、異なる速度ではあるが、MUC6−Tn複合糖質を認識したが、一方対応する非グリコシル化MUC6タンパク質は認識しなかったことを示す。抗Tn mAb 83D4は同様にMUC6−1およびMUC6−2複合糖質を認識したが(図4C)、MLS128は、最も低いTn密度を有するMUC6−2:Tn(T1)複合糖質とのより低い反応性を示した(図4D)。全てのMUC6糖タンパク質および非グリコシル化MUC6タンパク質は抗MUC6血清によって異なって認識された(図4E)。非グリコシル化MUC6タンパク質は、おそらく高度にグリコシル化されたタンパク質中のタンパク質骨格への接近可能性の欠如に起因して、MUC6−Tn複合糖質よりわずかに反応性であった。
【0124】
MUC6−2:Tn(MCF7)複合糖質は腫瘍細胞を認識する抗体を誘導する
MUC6−Tn複合糖質の1つの免疫原性を調べた。BALB/cマウスを、ミョウバン+CpG中のMUC6−2:Tn(MCF7)複合糖質または非グリコシル化MUC6−2タンパク質を用いて免疫化し、そして血清をヒト腫瘍細胞株Jurkatを認識するその能力について試験した(図5)。コントロールマウスにはミョウバン中のCpGのみを与えた。全てのMUC6糖タンパク質が非常に低いエンドトキシンレベル(<2EU/mgタンパク質)を示したことは注目に値する。MUC6−2:Tn(MCF7)複合糖質を用いた免疫化はJurkatヒト腫瘍細胞株を認識するIgG抗体を誘導したが、非グリコシル化MUC6−2タンパク質を用いた免疫化はそうではなかった(図5A)。
これらの抗体がこの細胞上のTn抗原を認識することを確認するために、本発明者らはアシアロ−OSM(Tn抗原を保有する)または脱グリコシル化OSMを使用して阻害アッセイを行った。図5Bに示すように、アシアロ−OSMのみが、MUC6−2:Tn(MCF7)を用いた免疫化の後に得られた血清および抗Tn mAb 83D4(コントロールとして使用)によるJurkat細胞の認識を阻害した。対照的に、抗CD4抗体のJurkat細胞への結合は2つの場合のいずれにおいても影響されなかった(図5B)。これらの実験は、MUC6−2:Tn(MCF7)がTn+腫瘍細胞を認識する抗Tn抗体を誘導することができることを明らかに示す。
【0125】
考察
ガン免疫療法の目的は、付随する自己免疫障害を引き起こすことなしにガン細胞に対する防御免疫を誘起することである。1つのアプローチは、ガン関連抗原による腫瘍特異的免疫応答の誘導に基づく。この目的のために、ムチンを、治療的抗腫瘍免疫を誘起するために設計されたワクチン中の免疫原として使用することができる。
ガン関連変化は、正常組織と異常組織との間のムチンタンパク質発現のみならず、ガンムチンを正常ンムチンから区別するO−グリコシル化のパターンにおいても生じる。実際、ムチンは正常には高度にグリコシル化されており、従って抗原性ペプチドコアは免疫系、特に抗体に物理的に接近不可能である。しかし、腫瘍細胞においては、ムチンはO結合型糖鎖のガン関連切断を示し、腫瘍特異的TF、Tnおよびシアリル−Tn抗原を生じる(Hollingsworth and Swanson 2004)。このことは、そのようなグリコシル化ムチンが特定のガンの処置のための標的として使用できることを示唆する。
Tn構造に基づく種々のワクチンが開発され、そして前臨床または臨床モデルにおいて試験されている。脱シアル酸化ヒツジ顎下ムチン(高Tnレベルを発現する)(Singhal et al. 1991)およびTnタンパク質複合体(Kuduk et al. 1998; Longenecker et al. 1987; US 2003/0083235 A1; Toyokuni et al. 1994; US 5,660,834)はマウスにおいて高いTn特異的抗体力価を誘導し、腫瘍チャレンジに対する防御を生じた。ヒトにおいて、脱シアル酸化赤血球(TnおよびT抗原に富む)は進行乳ガンの再発に対する防御を可能にした(Springer et al., 1993)。より最近に、Tnタンパク質複合体を用いた臨床試験の結果、PSA勾配の低下によって決定される抗腫瘍効果が生じた(Slovin et al., 2003)。本発明者らの研究室はまた、Tn抗原に基づく全合成ワクチン、MAG(多抗原性糖ペプチド)の調製を報告した(Bay et al. 1997)。MAG:Tnワクチンは、マウスおよび非ヒト霊長類において、ヒト腫瘍細胞に対する抗体依存性細胞傷害性を媒介できる強い腫瘍特異的抗Tn抗体を誘導することができる(Lo-Man et al. 2004)。しかし、そのような複合体の大規模調製は、合成方法全体の複雑さによって制限されている。
本発明者らのアプローチの範囲を臨床試験にさらに拡張するために、本発明者らは、Tn抗原をムチンコアタンパク質に酵素的に付加することを提案する。本実施例において、本発明者らは、様々なガンにおいて異常に発現されており、そしてそれ自体が標的抗原を構成し得るMUC6ムチンを選択した。実際、MUC6は、腸、肺、結腸および乳腺ガンにおいて検出されているが、それぞれの正常組織によっては発現されていない(Bartman et al. 1999, De Bolos et al. 1995, Guillem et al. 2000, Hamamoto et al. 2005, Nishiumi et al. 2003, Pereira et al. 2001)。さらに、本発明者らの予備的なデータは、MCF7乳ガン細胞においてMUC6がTn抗原を保有することを示唆する(Freire et al. 2005)。本実施例において、本発明者らは、Tn発現MUC6複合糖質の酵素的合成を記載する。多量のMUC6−Tn複合糖質を産生するために、本発明者らは、ppGalNAc−Tを使用することによってE.coliにおいて発現された組換えMUC6タンパク質へのGalNAcの転移を行った。この大きなファミリーの酵素は、in vivoにおいてGalNAc残基のセリンまたはトレオニンへの結合(すなわち、Tn抗原の合成)を触媒する。今日までに、15個のppGalNAc−Tが哺乳動物において同定されており、そしてファミリーの各メンバーの機能的プロフィールが確立されており、これらの酵素が異なる基質特異性のみならず特異的組織発現パターンも有することが示されている(Cheng et al. 2004, Ten Hagen et al. 2003)。
グリコシルトランスフェラーゼは、トランスグリコシル化反応を行うためのツールとして広く使用されている。なぜなら、それは大きなグリコシルアミノ酸の全化学合成に対する魅力的な代替であるからである(Marcaurelle and Bertozzi 2002)。O結合型グリカンを有する糖ペプチドおよび複合糖質の合成は、特にシアリル−Tn(George et al. 2001)およびシアリル−T抗原(Ajisaka and Miyasato 2000, George et al. 2001)について既に報告されている。ppGalNAc−Tもまた、糖ペプチドのin vitro合成のために首尾よく使用されている。研究の大部分は、MUC1(Takeuchi et al. 2002)またはMUC2(Irimura et al. 1999, Kato et al. 2001)由来の種々のペプチド基質に対するこれらの様々な酵素(組換えまたは細胞抽出物由来)の特異性の研究を目指しており、そしてそれらは分析規模(0.1〜10μgの範囲)で行われた。しかし、興味深いことに、組換えppGalNAc−T2およびppGalNAc−T4は、免疫化目的に使用されたMUC1−Tn糖ペプチドの調製を可能にした(Kagan et al. 2005, Sorensen et al. 2005)。
本実施例において、本発明者らは、MUC6組換えタンパク質のセリンおよびトレオニン残基への最大のGalNAc転移を達成するために、ガン細胞抽出物由来のppGalNAc−Tまたは精製組換えウシppGalNAc−T1を使用した。これら2つのppGalNAc−T供給源を2つの理由で選択した。
一方で、ガン細胞におけるMUC6のin vivo O−グリコシル化部位をより良く模倣するために、乳ガン細胞抽出物を使用した。
他方で、組換えbppGalNAc−T1は非常に広い特異性を有しており、そして精製組換えタンパク質を使用したin vitroグリコシル化アッセイは、より再現性のある結果を与え、そしてより容易な精製を可能にすることが期待される。
実際、両方のppGalNAc−T供給源を使用して得られた産物収率は異なり、組換えbppGalNAc−T1を使用した場合、より高かった(bppGalNAc−T1についての59〜69%に対してMCF7抽出物についての25〜34%)。この差異は、MUC6−Tn複合糖質をMCF7細胞抽出物を含有する反応混合物から精製するために必要なさらなる追加の工程に起因する。
著しい進歩が複合糖質の合成において最近なされているが、この型の高分子への接近は、特に多くの量が必要である場合、非常に困難なままである。本発明者らの知る限り、Tnグリコシル化組換えタンパク質がppGalNAc−Tの使用によって半調製量で得られるのはこれが最初である。最大のGalNAc転移のために最良の条件を選択することによって、本発明者らは、高密度のTn抗原を保有するMUC6複合糖質を得た。これらの様々なTn密度(MUC6−1:Tn(T1)については54個のGalNAc、MUC6−1:Tn(MCF7)については49個のGalNAc、MUC6−2:Tn(T1)については20個のGalNAc、およびMUC6−2:Tn(MCF7)については26個のGalNAc)は、独立した再現性のある実験の結果である。酵素供給源に依存して、本発明者らは異なるTnレベルを有する複合糖質を産生した。このことは、ppGalNAc−Tの特異性(全てのトレオニンおよびセリン残基が1つのppGalNAc−Tによって認識されるわけではない)によって説明され得る(Ten Hagen et al. 2203)。
本発明者らはまた、GalNAc転移がタンパク質の長さによって影響されるかどうかを評価するために、異なる大きさの2つのMUC6組換えタンパク質(MUC6−1については203aa、MUC6−2については119aa)のグリコシル化を調べた。組換えbppGalNAc−T1を使用した場合、本発明者らは、MUC6−1およびMUC6−2についてそれぞれ85個および48個の潜在的O−グリコシル化部位(ThrおよびSer残基の総数)のうち平均54個および20個の組み込まれたGalNAc残基を得、これはO−グリコシル化部位の約64%および43%に相当する。構造研究は、これらの異なるグリコシル化率がbppGalNAc−T1のムチンタンパク質中のアクセプター部位への接近可能性の欠如に起因するかどうかの決定の助けとなる。
ガンに対するワクチンの設計においてまず重要なのは、ワクチン中の抗原が腫瘍上の抗原を模倣することである。ガン細胞中に存在するネイティブなTnクラスターに近い構造を合成するために、本発明者らはまた、他のヒトガン細胞株について既に示されていたように、種々のppGalNAc−Tアイソフォームを発現し得るMCF7乳ガン細胞抽出物を使用したGalNAc転移を行った(Freire et al. 2005, Mandel et al. 1999, Marcos et al. 2003)。この場合、同様なGalNAc密度が得られ、潜在的O−グリコシル化部位の、MUC6−1については49個およびMUC6−2については26個(それぞれ58%および54%に相当)であった。従って、精製組換えbppGalNAc−T1およびMCF7細胞抽出物を用いて得られたグリコシル化の程度は異なり、そして驚くべきことに、Tn密度は後者の場合において必ずしもより高くはない。このことは、協調的かつ連続的に作用し、そしてタンパク質の全体のグリコシル化に正または負に寄与し得る細胞抽出物中の異なるppGalNAc−Tの存在によって説明され得る。
ガン細胞または組織に対して惹起された抗Tn抗体の大部分は、通常Tnクラスターと呼ばれる隣接するTnエピトープの群を認識する。実際、83D4およびMLS128抗Tn mAbは、基質認識のために少なくとも2つの連続したTn残基の存在を必要とする(Nakada et al. 1993, Osinaga et al. 2000)。MUC6−1およびMUC6−2中のThrおよびSer残基の2/3がクラスターに配列されていることを考慮すると、Tn抗原の大部分が、少なくとも、2つのTnのクラスターとして提示される可能性が高い。腫瘍免疫療法のためのMUC6−Tn複合糖質の潜在的な関連性は、それらの抗原性の分析によって証明される。実際、MUC6上のTn抗原は、Tn特異的モノクローナル抗体、例えばMLS128および83D4によって認識され、そしてTnクラスターの存在を確認する。様々なMUC6−Tn複合糖質中のグリコシル化部位を決定するためのMUC6タンパク質におけるO−グリコシル化の分析は進行中である。
例として、本発明者らはまた、MUC6−Tn複合糖質の1つが免疫原性であることを示した。実際、MUC6−2:Tn(MCF7)はIgG抗体をマウスにおいて誘導し、これはTn依存性機構を通してヒト腫瘍細胞を認識することができた。本発明者らの知る限り、これが、タンパク質担体なしで、Tn抗原を保有するムチン由来タンパク質での免疫化後のヒト腫瘍細胞特異的抗体の誘導を報告する最初の成果である。実際、これまでに免疫原として使用されたムチン由来糖ペプチドは、KLH複合体である(Kagan et al. 2005, Sorensen et al. 2005)。
結論として、ここに示す組換えムチンタンパク質のトランスグリコシル化方法は、出発タンパク質の100%がグリコシル化種に変換されたので、非常に簡便かつ有効である。
さらに、高グリコシル化率が達成された。腫瘍関連グリコフォームを有する組換えMUC6を多量に産生する能力は無比のものであり、そして前臨床、免疫学および腫瘍防御研究のために非常に価値がある。MUC6−Tn複合糖質の抗腫瘍効力は現在進捗中である。
【0126】
材料および方法
MUC6のクローニングおよびE.coliにおける発現
ヒトMUC6の1つのタンデム反復を含有するcDNAクローンをMCF7乳ガン細胞の全cDNAからRT−PCRによって単離し、そしてpGem−T(Promega, France)中にクローニングした。PCR産物を、Pfu DNAポリメラーゼおよびプライマー:
− MUC6−F、5’−cgggatccTCCACCTCCTTGGTGACT−3’(配列番号1)、および
− 配列5’−ggaagcttTTAGAAAGGTGGAACGTG−3’(配列番号2)のMUC6−1R(MUC6−1用)、または配列5’−ggaagcttATTAGGATGGTGTGTGGA−3’(配列番号3)のMUC6−2R(MUC6−2用)
(小文字はそれぞれフォワードおよびリバースプライマー中のBamHIおよびHindIIIの制限部位を示す)
を用いて増幅したヒトMUC6の1つのタンデム反復(MUC6−1、169アミノ酸)または半分のタンデム反復(MUC6−2、85アミノ酸)をコードするように設計した。
【0127】
BamHIおよびHindIIIでの消化後、各産物をpET28a(+)ベクター(Novagen, Fontenay-sous-Bois, France)中に、N末端に6ヒスチジンテールを保有するタンパク質をコードするようにクローニングした。E.coli DH5α(ATCC 53868)形質転換体を50μg/mlのカナマイシンを含有するLBプレート上で選択し、そして陽性クローンをPCR配列決定によって確認した。
プラスミドを選択したクローンから精製し、そしてそれを使用してE.coli BLi5化学的コンピテント細胞(Novagen, Fontenay-sous-Bois, France)を形質添加した。組換え体をE.coli Bli5において1mM IPTGでの誘導によって発現させ、そしてNi2+−ニトリロ酢酸カラムで変性条件下で製造者(Qiagen, Germany)の説明書に従って精製した。MUC6−1タンパク質を、Perkin-Elmerポンプシステムを230nmのUV検出器とともに使用するHPLCによってさらに精製した。カラムはSymmetry 300(商標)C18(5μm、300Å、3.9×250mm)(Waters、France)であった。溶出を、流速1mL/分(30分間にわたる)での水中0.1%トリフルオロ酢酸中10〜60%アセトニトリルの直線勾配を用いて行った。MUC6タンパク質をアミノ酸分析(AAA)およびSELDI−TOF MSによって特徴付けした。これらの分析は、N末端配列決定とともに、両方のタンパク質がN末端メチオニン残基を欠いていることを示した。
【0128】
乳ガン細胞株抽出物
乳ガン細胞株MCF7(ATCC番号HTB−22)を10%ウシ胎児血清、1mMピルビン酸、2mMグルタミンを含むダルベッコ改変イーグル培地(Life Technologies, Inc., Cergy Pontoise, France)中5%CO2、37℃で90%コンフルエンスになるまで増殖させた。トリプシン処理の後、細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、250mMスクロース中に再懸濁し、そしてホモジナイズした。次いで、細胞を3,000gで10分間4℃で遠心分離した。得られた上清を再び100,000gで1時間4℃で遠心分離した。ペレットを0.1MイミダゾールpH7.2および0.1%Triton X−100中に再懸濁した。細胞抽出物を小分けし、そして−80℃で貯蔵した。タンパク質濃度をBCA法(Sigma Chemical Co., St Louis, MO)によって決定した。
【0129】
組換えウシppGalNAc−T1
可溶性形態のウシppGalNAc−T1(bppGalNAc−T1)を酵母ピキア・パストリスKM71H株(Invitrogen, Cergy Pontoise, France)において発現させ、そして培養上清から精製した(Duclos et al. 2004を参照のこと)。
【0130】
可溶性形態のbppGalNAc−T1(アミノ酸52〜559)のcDNAコード領域を、N末端6HisタグおよびC末端FLAGタグを導入するように改変したpPICZαA発現ベクター(Invitrogen)のα因子配列シグナルコード領域の3’側に導入した。KM71H株をPichia EasyComp(商標)キット(Invitrogen, Cergy Pontoise, France)を使用してコンピテントにし、そして製造者の説明書に従って形質転換した。0.5%メタノール中での120時間の誘導の後、分泌されたbppGalNAc−T1をNi-NTAアガロース(Qiagen, Hilden, Germany)で記載のように(Duclos et al. 2004)精製した。酵素活性を含有する画分をプールしそして超純水に対して透析し、タンパク質を凍結乾燥しそして使用するまで−20℃で貯蔵した。組換えbppGalNAc−T1の比活性を以前に記載されるように試験し(Duclos et al. 2004)、そして3U/mgタンパク質と評価した(1単位は37℃で1分間当たり1μmolのGalNAcをアクセプターペプチド[STP]5に転移する)。
【0131】
MUC6タンパク質へのin vitro GalNAc転移
1.MCF7抽出物の使用
両方のMUC6タンパク質のin vitroグリコシル化のための至適条件を、様々なアッセイ条件を分析規模で試験し、そして得られた糖タンパク質を実施例2に記載のようにSELDI−TOF MS(Ciphergen Biosystems, California)によって特徴付けした後に選択した。簡潔に記載すると、MCF7乳ガン細胞のミクロソーム抽出物を37℃でUDP−GalNAcおよび精製MUC6−1またはMUC6−2とともに15mM MnCl2および0.1%Triton−X100を含有する50mMイミダゾールpH7.2中でインキュベーションした。アリコートを様々な時点で取り、そして−20℃で凍結した。IMAC30チップアレイの表面を100mM NiCl2を用いて室温で15分間活性化し、次いで水およびPBSで洗浄した。スポットを粗グリコシル化混合物のアリコートとともに40分間室温でバイオプロセッサーアダプターを使用してインキュベーションし、次いでPBS中0.1%Triton−X100(2×5分間)、PBS(3×2分間)および5mM HEPES(2×5分間)で洗浄した。次いで、チップを機器(Ciphergen ProteinChip Reader, PBS II)中で読み取り、そして各アレイスポットをレーザーサンプリングした。スペクトルをCiphergen ProteinChipソフトウェア3.2.1を使用して処理した。
その結果、以下の条件を選択し、そして半調製規模のグリコシル化転移アッセイのために使用した。精製MUC6−1またはMUC6−2(40〜80μM)をMCF7抽出物(6μgタンパク質/μgムチン)およびUDP−GalNAc(ムチン糖タンパク質中のThr/Ser当量当たり2当量)とともに50mM MnCl2および0.1%Triton−X100を含有する50mMイミダゾールpH7.2中37℃でインキュベーションした。24時間のインキュベーションの後、同量のMCF7抽出物およびUDP−GalNAcを添加し、そしてさらに24時間インキュベーションした。得られたMUC6−1:TnまたはMUC6−2:TnをNi-NTAアガロース(Qiagen, Hilden, Germany)を使用して精製し、次いでPerkin-Elmerポンプシステムを230nmのUV検出器とともに使用する逆相HPLCに供した。カラムはSymmetry 300(商標)C18(5μm、300Å、3.9×250mm)(Waters、France)であった。溶出を、流速1mL/分(30分間にわたる)での水中0.1%トリフルオロ酢酸中10〜60%アセトニトリルの直線勾配を用いて行った。ピークを集め、次いで凍結乾燥した。MUC6−1:TnおよびMUC6−2:Tn糖タンパク質を、AAAおよび質量分析によって特徴付けした。
2.bppGalNAc−T1の使用
bppGalNAc−T1を使用するGalNAc転移の至適半調製条件を、MCF7抽出物について記載したようにCiphergen(登録商標)技術を使用して設定した。MUC6−1またはMUC6−2精製タンパク質(40〜80μM)を37℃で24時間UDP−GalNAc(ムチン糖タンパク質中のThr/Ser当量当たり2当量)およびbppGalNAc−T1(0.1μg/μgムチン)とともに15mM MnCl2を含有する50mM MES、pH6.5中でインキュベーションした。得られたMUC6−1:TnまたはMUC6−2:Tnを逆相HPLCに直接供し、そして上記で説明したように精製した。ピークを集め、凍結乾燥し、そしてAAAおよび質量分析によって特徴付けした。
【0132】
抗体
Tn抗原を特異的に認識する(Osinaga et al. 2000)mAb 83D4(IgM)(Pancino et al. 1991)を、侵襲性ヒト乳ガンのホルマリン固定パラフィン包埋切片から得た細胞懸濁物を用いて免疫化したマウスから産生した(Pancino et al. 1990)。次いで、これを鉱質除去水に対する4℃での透析によって腹水から沈殿させ、少量のPBS中0.5M NaCl中に溶解し、そしてSephacryl S-200でのゲルろ過クロマトグラフィーによって精製した。
抗Tn mAb MLS128(IgG1)(MLS128 mAb(p50): Numata et al. 1990)をヒト結腸ガン細胞(LS180)(Numata et al. 1990)を用いて免疫化したマウスから得、そしてプロテインA−Sepharoseでのアフィニティクロマトグラフィーによって精製した。両方の抗Tn mAbは、クラスターに構成されたTn残基を認識する(Nakada et al. 1993, Osinaga et al. 2000)。
MUC6−2抗血清を、ミョウバン(1mg)およびCpG(10μg)中の精製MUC6−2(下記参照のこと)10μgでのBALB/cマウスの注射によって得た。マウスに0日目、21日目および42日目にi.p.注射し、そして20日目、28日目および49日目に放血した。MUC6−1およびMUC6−2に対するMUC6−2抗血清の反応性をELISAアッセイによって確認し、そして血清を−20℃で使用するまで貯蔵した。
【0133】
抗Tn mAbおよび抗MUC6血清によるMUC6−1:TnおよびMUC6−2:Tnの認識
マイクロタイタープレート(Nunc, Denmark)をin vitro合成した糖タンパク質(0.1μg/ml)でコーティングし、そして一晩乾燥させた。プレートをPBS中0.1%Tween 20(PBS/T)で3回洗浄し、そして非特異的結合部位をPBS中1%ゼラチン(PBS/G)で2時間37℃でブロッキングした。洗浄後、抗Tn mAb(83D4もしくはMLS128)またはポリクローナル抗MUC6血清を添加し、そして2時間37℃でインキュベーションした。PBS/Tで3回洗浄した後、プレートをPBS/TG中で希釈したヤギ抗マウスIgMまたは抗IgGペルオキシダーゼ複合体(Sigma, St. Louis, Mo)とともに1時間37℃でインキュベーションした。プレートをo−フェニレンジアミン/H2O2を使用して発色させ、そしてELISAオートリーダー(Dynatech, Marnes la Coquette, France)中492nmで測光法で読み取った。
【0134】
MUC6−Tn複合糖質のウエスタンブロット分析
MUC6−Tn糖タンパク質を、抗His mAb(Qiagen, Hilden, Germany)および抗Tn mAb 83D4を使用するウエスタンブロッティングによって分析した。複合糖質を13%SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動中で分離し、そしてニトロセルロースシート(Amersham, Saclay, France)に30Vで一晩20mM Tris−HCl、pH8.3、192mMグリシン、10%エタノールで既に記載されるように移した(Towbin et al. 1992)。残存するタンパク質結合部位を、PBS中3%ウシ血清アルブミン(BSA)との37℃で2時間のインキュベーションによってブロッキングした。次いで、ニトロセルロースを抗His mAbまたは抗Tn mAb 83D4とともに2時間37℃でインキュベーションした。0.1%Tween 20および1%BSAを含有するPBSで3回洗浄した後、メンブランを1時間室温で0.1%Tween−20および1.5%BSAを含有するPBS中で希釈した、ペルオキシダーゼにコンジュゲーションしたヤギ抗マウス免疫グロブリン(Sigma, St. Louis, Mo)とともにインキュベーションし、そして反応を増感化学発光(ECL)(Amersham, Saclay, France)を用いて発色させた。ネガティブコントロールとして、同じ手順を抗体を省略して行った。
【0135】
エンドトキシンレベルの決定
エンドトキシンレベルを全てのグリコシル化および非グリコシル化MUCタンパク質において製造者の説明書に従ってLimulus Amebocyte Lysate QCL-1000キット(Cambrex, France)を使用して決定した。
【0136】
マウスの免疫化
6〜8週齢の雌性BALB/cマウスをJanvier(Le Genest Saint-Isle, France)から購入した。マウスに、ミョウバン(1mg)(Serva, Heidelberg, Germany)+CpG(10μg)(Proligo, France)と混合したMUC6−2またはMUC6−2:Tn(MCF7)(10μg)を3週間間隔で3回i.p.注射した(1群当たり5匹のマウス)。コントロールマウスにミョウバン+CpGのみを与えた。血清を各免疫化後に集め、そして抗MUC6および抗Tn抗体の存在についてELISAおよびFACSによって試験した。
【0137】
フローサイトメトリー
マウスの血清を、1:500希釈で、ヒト腫瘍細胞株Jurkat(ATCC TIB−152)に対するフローサイトメトリーによって試験した。細胞をまず、15分間血清とともに4℃で5%ウシ胎児血清および0.1%アジ化ナトリウムを含有するPBS中でインキュベーションした。次いで、細胞を15分間PEにコンジュゲーションした抗マウスIgGヤギ抗体(Caltag, Burlingame, CA)とともにインキュベーションした。パラホルムアルデヒド固定した細胞をFACScanフローサイトメーター(Becton Dickinson, San Jose, CA)で分析し、そして分析をCellQuestソフトウェア(Becton Dickinson)を用いて行った。阻害アッセイについては、細胞を、アシアロ−OSM[ヒツジ顎下ムチン]または脱グリコシル化OSM(Tettamanti G, Pigman W. (1968), Mendicino J, Sangadala S. (1998)、Freire T, Casaravilla C, Carmona C, Osinaga E. (2003)に以前に記載されたように調製した)の段階希釈物とまず混合した血清とともに15分間4℃でインキュベーションした。次いで、抗体の細胞への結合を、PEにコンジュゲーションした抗マウスIgGヤギ抗体を使用して示した。抗Tn mAb 83D4をポジティブコントロールとして使用した。抗CD4 mAb(Caltag, Burlingame, CA)もまた、このmAbの細胞への結合がOSMタンパク質によって影響されないことを確認するために使用した。
【0138】
実施例2:方法の至適化のための表面増強レーザ脱離/イオン化飛行時間質量分析(SELDI−TOF MS)による酵素的コンジュゲーション反応の効率的なモニタリング
要旨
バイオコンジュゲーション反応の効率的な分析は、多量の複合体の再現性のある産生を至適化しそして最終的に達成するための最も挑戦的な仕事の1つである。特に、いくつかの反応混合物の複雑さは、多量の混入物の存在のために、既存の方法の大部分の使用を妨げる。代替の方法として、本発明者らは表面増強レーザ脱離/イオン化飛行時間質量分析(SELDI−TOF MS)をN−アセチルガラクトサミン残基の組換えムチンタンパク質MUC6へのin vitroでの酵素的トランスグリコシル化をモニタリングするために使用した。ウリジン5’−ジホスホ−N−アセチルガラクトサミン:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(ppGalNAc−T)によって触媒されるこの反応のために、本発明者らは組換えppGalNAcT1またはMCF−7腫瘍細胞抽出物中に含有されるppGalNAcTの混合物を使用した。
本実施例において、本発明者らは、SELDI−TOF MSが従来の方法を上回る特有の利点を与えることを示す。これは、細胞抽出物のような不均一なサンプル中でさえも、バイオコンジュゲーションの過程をモニタリングするための、迅速で、正確で、感度が良く、再現性のあるそして非常に簡便な分析方法である。SELDI−TOF MSは、トランスグリコシル化の反応パラメーターを至適化し、そして抗腫瘍免疫療法適用のためのTn抗原グリコシル化ムチンの大規模調製を達成するために非常に有用であることが判明した。
【0139】
緒言
バイオコンジュゲーション技術は生命科学研究のほぼ全ての分野において広く使用されている(Niemeyer et al. 2004, Hermanson 1996)。適用領域の1つは免疫化目的、抗体産生およびワクチン研究のためのハプテン担体複合体の調製である。実際、炭水化物のような小さなハプテン分子は単独で効率的な免疫応答を誘起することができない。それらを免疫原性にするために、それらを適切な担体分子、典型的にはタンパク質に結合しなければならない。
得られる複合体の特徴は、免疫応答の強度および質において重大な役割を担う。特に、いくつかのグループが、産生される抗体のレベル、特異性および親和性に対するハプテン密度の影響を報告している(Hubbard et al. 1993, Singh et al. 2004)。それゆえ、複合体の再現性のある産生を達成するためには、複合体の慎重な追跡調査が非常に重要である。
これらの複合体を分析しそしてその至適な調製を確認するために様々なアプローチが一般に用いられている。方法の選択はハプテンおよび担体の両方の物理化学的特性ならびに架橋ストラテジーに依存する。最も頻繁に使用される手順は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を伴うかまたは伴わない(Oda et al. 2004, Singh et al. 2004, Weller et al. 2003, Weller et al. 2003, Adamczyk et al. 1996-9)、ゲルろ過(Hermanson et al. 1993)、吸光(Pauillac et al. 2002)および蛍光(Singh et al. 2004, Weller et al. 2003)分析法、ゲル電気泳動(Pawlowski et al. 2000, Singh et al. 2004, Adamczyk et al. 1996)、スルフヒドリル基(Riddles et al. 1979)、アミノ基(Sashidhar et al. 1994)、または炭水化物残基(Manzi et al. 1993)を含む反応のための比色アッセイを伴う質量分析を含む。
効率的ではあるが、これらの既存の方法はいくつかの欠点を有している。まず、これらはしばしばサンプルのさらなる処理を必要とし、時間がかかり、そして多数のサンプルを分析すべき場合に実施が容易ではない。さらに、それらは通常さほど正確ではなく、そして複合体の分子量および完全性のおおよその評価を与えるのみである。最後に、いくつかの反応混合物(細胞抽出物、血清、組織ホモジネートなど)の複雑さは、多量の他の化合物(脂質、界面活性剤、塩、他のタンパク質など)の存在に起因して、分析の有効性に悪影響を及ぼし得る。
それゆえ、特に複雑かつ不均一なサンプルを用いる、バイオコンジュゲーション反応をモニタリングするための、迅速で感度の良い分析方法の必要性が存在する。さらに、そのような効率的な方法は、バッチ間の一貫性を確実にしながら、方法を至適化し、そして複合体の産生をスケールアップするための、開発において重要である。
ProteinChip(登録商標)アレイ技術または表面増強レーザ脱離/イオン化飛行時間質量分析(SELDI−TOF MS)は、2つの強力な技術、クロマトグラフィーおよび質量分析を組み合わせることによって複雑なタンパク質混合物の分析を可能にする。チップ表面上での選択的保持の後、目的の化合物をレーザ脱離/イオン化質量分析によってその後分析する。この技術は多くの分野、例えばバイオマーカーの発見、生体分子相互作用の研究、タンパク質のプロファイリング、翻訳後修飾の分析などで首尾よく使用されている(Tang et al. 2004, Issaq et al. 2002)。
【0140】
これらの適用に比較して、反応のモニタリング(化学的にせよ酵素的にせよ)または得られる産物の分析のためのSELDI−TOFの使用を示す例はこれまでに非常に少ししか記載されていない。最近、酵素消化(Caputo et al. 2003, Merchant et al. 2000)または限定的酸加水分解(Lin et al. 2001)後のペプチドまたはタンパク質の直接的な分析がオンチップ(on-chip)で、タンパク質配列を同定する目的で首尾よく行われている。オンチップの酵素反応およびその後の特徴付けもまた、翻訳後修飾を研究するために行われている。この方法を使用して、組換え抗体のグリコシル化の程度がPNGaseFを使用する脱グリコシル化手順を用いてモニタリングされており(Cleverley et al. 2003)、そしてペプチドまたはタンパク質のリン酸化状態がキナーゼ(Cardone et al. 1998)またはホスファターゼ(Voderwulbecke et al. 2005)の作用の後に評価されている。この最後の例は経時研究を含んでいた。
別の特徴付け研究において、Hubalek et al.は、ビオチン化組換えヒトモノアミンオキダーゼの消化、およびアフィニティカラムでのその後の精製後の、ビオチン化トリプシンペプチドの分析を記載している。同様に、プロテアーゼ活性化受容体2に関連する合成ペプチドから酵素的に遊離されたペプチドがSELDI−TOFによって同定された(Dulon et al. 2005)。興味深いことに、SELDI−TOF MSはまた、培養上清から直接的に、細菌タンパク質の自己活性化プロセスの過程を追跡することを可能にしている(Boyle et al. 2001)。
最後に、SELDI−TOF MSの有用性が、スクエア酸ジエステル化学を使用するコンジュゲーション方法による、細菌オリゴ糖のタンパク質への付加のモニタリングについて実証されている(Chernyak et al. 2001, Saksena et al. 2003)。しかし、反応は、合成リンカー誘導体化オリゴ糖、タンパク質担体および緩衝液から構成される単純な混合物における化学的連結であった。
本発明者らの知る限り、SELDI−TOF MSが、複雑な混合物におけるin vitroでの酵素的コンジュゲーション反応をモニタリングするために使用されたことはない。
ハプテン分子の中で、炭水化物が特に興味深い。なぜなら、炭水化物は細菌決定基の一部であり、そして腫瘍関連抗原(TAA)でもあるからである。その結果、多数の炭水化物−タンパク質複合体が感染性疾患およびガンに対するワクチンとして開発されている(Lo-Man et al. 2004)。乳房、肺、前立腺および結腸ガンにおいて過剰発現される炭水化物TAAである(Springer 1984, Freire et al. 2003)Tn抗原(α−D−GalNAc−Ser/Thr)を提示する種々の複合体の調製(Lo-Man et al. 2004, Kuduk et al. 1998, Slovin et al. 2003)が記載されている。得られる糖ペプチド(Lo-Man et al. 2004)または糖タンパク質(Kuduk et al. 1998, Slovin et al. 2003)はガンの標的化のための高度に有望なワクチンの候補であることが示されている。
しかし、そのような複合体の調製は、多段階の面倒な合成および/または時間のかかる精製に依存する。これらの困難を回避するために、本発明者らは、高Tn密度を有するタンパク質複合糖質を産生するための酵素的アプローチを開発した。
Tnムチンは抗腫瘍免疫療法のための魅力的な標的である。なぜなら、炭水化物はムチン内の腫瘍関連構造の重要な部分であることが示されているからである(Grinstead et al. 2002)。タンパク質骨格として、本発明者らは、肺(Hamamoto et al. 2005, Nishiumi et al. 2003)および乳房(De Bolos et al. 1995, Pereira et al. 2001)ガン腫を含む様々な腫瘍において記載されているMUC6胃ムチン(Toribara et al. 1993)を選択した。このムチンは、in vivoにおいてTn抗原合成を担う酵素であるウリジン5’−ジホスホ−N−アセチルガラクトサミン(UDP−GalNAc):ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(ppGalNAcT、EC 2.4.1.41)の天然基質である。
抗腫瘍免疫療法のためのMUC6−Tn複合体の大規模調製を達成するために、本発明者らは、ムチンアクセプター上へのin vitroでの酵素的なTn抗原の転移を行った。本発明者らは、本明細書において、SELDI−TOF MSによるコンジュゲーションのモニタリングを記載し、そしてこの方法が、複雑な混合物を含む反応パラメーターを至適化するために非常に迅速かつ効率的であることを示す。
【0141】
実験手順
MUC6のクローニングおよびE.coliにおける発現
1つのMUC6のタンデム反復を含有するcDNAクローンを、RT−PCRによってMCF7乳ガン細胞の全cDNAから単離し、そしてpGem−T(Promega, France)中にクローニングした。PCR産物を半分のタンデム反復(87アミノ酸)をコードするように設計し、実施例1に記載のように増幅した。
組換え体を、1mM IPTGでの誘導によってE.coli Bli5において発現させ、そしてNi2+−ニトリロ酢酸カラムで変性条件下で製造者(Qiagen, Germany)の説明書に従って精製した。
【0142】
乳ガン細胞株抽出物
乳ガン細胞株MCF−7(ATCC番号HTB−22)を10%ウシ胎児血清、1mMピルビン酸および2mMグルタミンを含むダルベッコ改変イーグル培地(Life Technologies, Inc.)中5%CO2、37℃で90%コンフルエンスになるまで増殖させた。トリプシン処理の後、細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で3回洗浄し、PBS中に再懸濁し、そしてホモジナイズした。細胞を3,000gで10分間4℃で、そして100,000gで1時間4℃で遠心分離した。得られたペレットを0.1MイミダゾールpH7.2および0.1%Triton X−100中に再懸濁した。細胞抽出物を小分けし、そして−80℃で貯蔵した。タンパク質濃度をBCA法(Sigma Chemical Co., St Louis, MO)によって決定した。
【0143】
組換えウシポリペプチドGalNAcトランスフェラーゼ1
可溶性形態のウシppGalNAc−T1(Duclos et al. 2004)を酵母ピキア・パストリスKM71H株(Invitrogen)において発現させ、そして実施例1に記載するように精製した。
【0144】
MUC6タンパク質のin vitro GalNAc転移
MCF7乳ガン細胞のミクロソーム画分を37℃でUDP−GalNAcおよび精製組換えMUC6とともに50mM MnCl2および0.1%Triton−X100を含有する50mMイミダゾールpH7.2中でインキュベーションした。組換えppGalNAc−T1を使用した場合、MUC6精製タンパク質をUDP−GalNAcとともに50mM MES、pH6.5中37℃で24時間インキュベーションした。
アリコートを様々な時点で取り、そして−20℃で凍結した。様々な反応条件を下記の表2に詳述する。
【0145】
【表3】

【0146】
上記表2において:
a モル当量を潜在的O−グリコシル化部位(47個のセリンおよびトレオニン残基)に比較して表す;
b 65μgを反応の開始時に添加し、そして65μgの添加を24時間目に繰り返した;
c ネオ複合糖質の平均分子量を、図1および2において矢印で印を付した中央ピークから算出した;
d GalNAcの分子量 M=203.19。
【0147】
得られたMUC6−TnをNi-NTAアガロース(Qiagen, Hilden, Germany)を使用して精製し、次いでPerkin-Elmerポンプシステムを230nmのUV検出器とともに使用する逆相HPLCに供した。カラムはSymmetry 300(商標)C18(5μm、300Å、3.9×250mm)(Waters、France)であった。溶出を、流速1ml/分(30分間にわたる)での水中0.1%トリフルオロ酢酸中10〜60%アセトニトリルの直線勾配を用いて行った。ピークを集め、次いで凍結乾燥した。MUC6−Tn糖タンパク質を、アミノ酸分析および質量分析によって特徴付けした。
【0148】
SELDI−TOFによる反応のモニタリング
IMAC30チップアレイの表面を100mM NiCl2を用いて室温で15分間活性化し、次いで水およびPBSで洗浄した。スポットを全グリコシル化混合物のアリコートとともに40分間室温でバイオプロセッサーアダプターを使用してインキュベーションし、次いでPBS中0.1%Triton−X100(2×5分間)、PBS(3×2分間)および5mM HEPES(2×5分間)で洗浄した。次いで、チップをPBS II機器中で読み取り、そして各アレイスポットをレーザーサンプリングした。スペクトルをCiphergen ProteinChipソフトウェア3.2.1を使用して処理した。
【0149】
結果および考察
組換えMUC6タンパク質を、酵素(組換えppGalNAcT1(Duclos et al. 2004)またはMCF−7腫瘍細胞抽出物中に含有されるppGalNAcTの混合物)の存在下での炭水化物活性化ドナーUDP−GalNAcからのトランスグリコシル化反応に供した(図6)。反応物の小アリコートを取り出し、そして固定化金属アフィニティ捕獲(IMAC30)を通したProteinChip表面上の固定化後にSELDI−TOF MSによって直接分析した。
図7A〜7Gに示すように、ppGalNAcT1はGalNAc残基のMUC6タンパク質上へのin vitro転移を非常に効率的に触媒することができる。反応の進行を、出発材料の質量に比較しての、GalNAc残基の転移によって引き起こされる、より高い質量への移動によってモニタリングする(図7A)。スペクトルは、複合体の増大する分子量を示し、そして平均ハプテン−タンパク質化学量論、ならびに複合体の分布/多分散の決定を可能にする一組のピークを示す。
トランスグリコシル化反応を種々の実験条件下で調べた(表2を参照のこと)。
【0150】
転移の程度を、2当量のUDP−GalNAcドナー(モル当量は、潜在的O−グリコシル化部位、すなわち全セリンおよびトレオニン残基を指す)および可変量の組換えppGalNAcT1を用いて、24時間のインキュベーションの後に分析した。図7B〜7Eに示すように、酵素の添加の結果、5(図7B)〜19(図7E)の平均Tn量での有意なグリコシル化の増加を示す、顕著なそして進行するスペクトルの移動が生じた。
酵素単独またはUDP−GalNAcと一緒の酵素のさらなる添加は、転移を有意には改善しなかった。同様に、24時間より長いインキュベーション期間は、観察可能な分子量の増加を生じなかった。このことは、少なくともこれらの型の条件において、最大Tnレベルが達成されたことを示す。
ドナーの量の効果をパネルE〜Gに示す(図7)。より少量のUDP−GalNAcを使用した場合、SELDI−TOF MSプロフィールは匹敵することが見出されたが、転移のわずかな低下が0.5当量のドナーを用いて観察された(図7G)。
高価なドナーUDP−GalNAcを節約しつつ多量の複合体を産生するために、本発明者らは反応のスケールアップのために図7Fの実験条件を選択した(1当量のUDP−GalNAcおよび1μgの酵素/10μgのMUC6)。半調製量(mg範囲のムチン)でトランスグリコシル化を行った場合、転移GalNAc残基数は分析レベルで得られたものと実質的に同じであることが見出された。その結果、複数mgのネオ複合糖質の調製が達成され、そしてその免疫学的特性の評価を実施例1において報告する。
選択した条件での代表的なスペクトルの拡大は(図7F)、質量増大の詳細を示す(図8A)。各ピーク間の差異は、単一GalNAc残基の予想平均質量に対応し(203.193)、このことは、SELDI−TOF MSが、少なくともこの分子量範囲で、分解能を有する方法であることを実証する。対照的に、逆相HPLCプロフィールは異なる種の分離を示さなかった(図8B)。
【0151】
次いで、SELDI−TOFを、より複雑な混合物における、すなわち、MCF−7腫瘍細胞由来の抽出物中に含有されるppGalNAcT触媒を用いるトランスグリコシル化の分析に適用した(図9)。粗混合物を用いて得られた質量分布は、組換え酵素を用いて観察されたものと類似している。しかし、24個のTn/タンパク質分子の平均密度が50時間の反応および2回の細胞抽出物の添加の後に達成されたので、転移率はより良好である(図9B)。得られた最大Tn−タンパク質化学量論がppGalNAcT T1の場合より高いという事実は、転移がタンパク質の立体構造(セリンおよびトレオニン残基の接近可能性の欠如)のみならず酵素の特異性によっても制限されることを示す。
興味深いことに、細胞抽出物中の多数の混入物の存在は、S/N比にほとんど影響せず、このことはSELDI−TOFがそのような複雑な分析のために有用であり得ることを示す。
それゆえ、化学的コンジュゲーション反応のモニタリングがP. Kovacおよび共同研究者らによって以前に報告されているが(Chernyak et al. 2001, Saksena et al. 2003)、本発明者らは、そのようなモニタリングを複雑な混合物(細胞抽出物)中の酵素反応についても混入物からの干渉なしに行うことができることをここに示す。これらの結果は、SELDI−TOF MSが、バイオコンジュゲーション反応をモニタリングするための強力なツールであることを意味する。この技術は従来の分析方法に対する非常に効率的な代替を提供する。
第一に、複合体を10ngほどの少量(1pmol範囲)から少なくとも10,000〜20,000の分子量範囲で約203の質量増大について効率的に分析することができたので、これは感度が良くそして正確な方法である。免疫化目的で使用される従来のタンパク質担体は通常、より高い分子量(約60,000(ウシ血清アルブミンまたはBSA、ジフテリアトキソイド)〜数百万(キーホールリンペットヘモシアニンまたはKLH))を有する。SELDI−TOF MSの正確さおよび分解能は、より高い分子量範囲(特にKLHの)に明確に限定される。これはまたハプテンの分子量に依存する。これらの問題点を克服するために、ZipTip(登録商標)ピペットチップの使用を考慮することができる。この方法は、サンプルの微小規模の浄化を含み、これを次いで高性能質量分析計(MALDIまたはエレクトロスプレー)に適用することができ、高分子量範囲での効率的な分析が可能になる。しかし、低分子量については、ProteinChip(登録商標)アレイ技術は依然としてより単純であることは注目に値する。なぜなら、これは同じデバイス上での精製工程および質量分析を可能にするからである。このことは、移動工程の必要性を除き、そしてサンプルの至適な回収をもたらす。
【0152】
第二に、この方法は、分析の前にサンプルを精製または誘導体化する必要なしに、粗反応物に対して直接行うことができるので、非常に迅速である。さらに、いくつかのサンプルを容易に平行して分析することができるという事実は、コンジュゲーションの効率に対する種々の条件の影響を調べるために非常に価値があり得る。それゆえ、SELDI−TOF MSは、高スループット至適化ストラテジーのために潜在的に非常に有用である。
最後に、本発明者らの知見は、SELDI−TOFがin vitroでの酵素的コンジュゲーション由来の複雑な粗サンプルを分析するために適切であることを示す。
これはまた、in vivoにおいて行われる細胞内反応をモニタリングするために直接的に適用可能であり得る。そのような分析は、組換えタンパク質産生を至適化するために(Clerverley et al. 2003, Savage et al. 2004)、または細菌タンパク質の分泌および自己活性化を分析するために(Boyle et al. 2001)、粗発酵または細胞培養供給源について既に報告されている。ムチンタンパク質に対する同様の研究は研究室において現在進捗中である。
【0153】
略語
BCA:ビシンコニン酸;BSA:ウシ血清アルブミン;HEPES:4−(2−ヒドロキシエチル)−ピペラジン−1−エタンスルホン酸;HPLC:高速液体クロマトグラフィー;IPTG:イソプロピル−β−D−チオガラクトシド;mAb:モノクローナル抗体;MES:2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸;PBS:リン酸緩衝化生理食塩水;PCR:ポリメラーゼ連鎖反応;ppGalNAc−T:UDP−N−アセチルガラクトサミン:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ;SDS−PAGE:ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動;SELDI−TOF MS:表面増強レーザ脱離/イオン化飛行時間質量分析;UDP−GalNAc:ウリジン5’−ジホスホ−N−アセチルガラクトサミン
【0154】
【表4】






















【表5】







【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1A】MUC6クローン化タンパク質の2つの公知のMUC6タンデム反復とのアラインメント。 アラインメントを、MCF7乳ガン細胞由来のクローン化MUC6タンパク質の得られた予測配列(配列番号4のMUC6−1、第1のアラインメント行;および配列番号5のMUC6−2、第2のアラインメント行)を、既報の正常胃ライブラリーから増幅されたMUC6タンデム反復(TR1およびTR2およびTR3、それぞれ第3〜第4のアラインメント行)(アクセッションナンバーQ14395)とともに使用して、ClustalWを用いて行った。O−グリコシル化の潜在的部位を、http://www.cbs.dtu.dk/services/NetOGlyc/のNetOGlyc3.1サーバーを使用して決定し、そしてグレーに陰影を付す。融合Hisタグに対応する配列に下線を付す(すなわち、配列番号4および5の最初の34個のN末端アミノ酸)。同一のアミノ酸を[*]で印を付す。
【図1B】SDS−PAGEによって分析した、MUC6−1組換えタンパク質の精製。 MUC6−1組換えタンパク質をNi-NTAアガロースおよびHPLCを使用して精製した。画分をSDS−PAGE(13%)によって分離し、そしてクーマシーブルーで染色した。レーン1〜4:Ni-NTAアガロース溶出画分;レーン5:HPLC後の精製MUC6−1。分子量マーカーをkDaで表す。
【図1C】SDS−PAGEによって分析した、MUC6−2組換えタンパク質の精製。 MUC6−2組換えタンパク質をNi-NTAアガロースを使用して精製した。画分をSDS−PAGE(13%)によって分離し、そしてクーマシーブルーで染色した。レーン1〜4:Ni-NTAアガロース溶出画分。分子量マーカーをkDaで表す。
【図2A】MUC6タンパク質へのGalNAcの転移およびGalNAc数の決定。 トランスグリコシル化反応を、bppGalNAc−T1(300μg)を使用してMUC6−1精製ムチン(3mg、0.14μmol)およびUDP−GalNAc(7.8mg、11.5μmol)を用いて、またはMCF7細胞抽出物(12mg、2回で)を使用してMUC6−2精製ムチン(1mg、0.082μmol)およびUDP−GalNAc(3.2mg、4.92μmol、2回で)を用いて行った。MUC6−1:Tn(T1)糖タンパク質をHPLCによって直接分析した。
【図2B】MUC6タンパク質へのGalNAcの転移およびGalNAc数の決定。 MUC6−2:Tn(MCF7)糖タンパク質をNi-NTAアガロースを使用して精製し、HPLCによって分析した。
【図2C】MUC6タンパク質へのGalNAcの転移およびGalNAc数の決定。 HPLCによる精製後、MUC6−1:Tn(T1)(図2C)およびMUC6−2:Tn(MCF7)(図2D)をSELDI−TOF MSによって分析した。各ピークにダルトンでの質量数/電荷数(m/z)値を表示する。取り込まれたGalNAc単位の対応する数を括弧内に示す。
【図2D】MUC6タンパク質へのGalNAcの転移およびGalNAc数の決定。 HPLCによる精製後、MUC6−1:Tn(T1)(図2C)およびMUC6−2:Tn(MCF7)(図2D)をSELDI−TOF MSによって分析した。各ピークにダルトンでの質量数/電荷数(m/z)値を表示する。取り込まれたGalNAc単位の対応する数を括弧内に示す。
【図3】精製MUC6−1およびMUC6−2ならびにそれらの複合糖質のSDS−PAGE。 精製複合糖質(0.5μg)を13%SDS−PAGE中で分離し、そしてクーマシーブルーで染色した。レーン1:MUC6−2;レーン2:MUC6−2:Tn(T1);レーン3:MUC6−2:Tn(MCF7);レーン4:MUC6−1;レーン5:MUC6−1:Tn(T1);レーン6:MUC6−1:Tn(MCF7)。分子量マーカーをkDaで示す。
【図4A】ウエスタンブロッティング(A〜B)およびELISA(C〜E)による、抗Tn mAbによるMUC6−Tn複合糖質の認識。 複合糖質を13%SDS−PAGE中で分離し、そしてニトロセルロースシート上に移した。抗His mAb(図4A)および抗Tn mAb 83D4(図4B)を添加し、続いて抗マウスペルオキシダーゼ複合体を添加し、そして反応を増感化学発光を用いて発色させた。レーン1:MUC6−2;レーン2:MUC6−2:Tn(T1);レーン3:MUC6−2:Tn(MCF7);レーン4:MUC6−1;レーン5:MUC6−1:Tn(T1);レーン6:MUC6−1:Tn(MCF7)。分子量マーカーをkDaで示す。
【図4B】ウエスタンブロッティング(A〜B)およびELISA(C〜E)による、抗Tn mAbによるMUC6−Tn複合糖質の認識。 複合糖質を13%SDS−PAGE中で分離し、そしてニトロセルロースシート上に移した。抗His mAb(図4A)および抗Tn mAb 83D4(図4B)を添加し、続いて抗マウスペルオキシダーゼ複合体を添加し、そして反応を増感化学発光を用いて発色させた。レーン1:MUC6−2;レーン2:MUC6−2:Tn(T1);レーン3:MUC6−2:Tn(MCF7);レーン4:MUC6−1;レーン5:MUC6−1:Tn(T1);レーン6:MUC6−1:Tn(MCF7)。分子量マーカーをkDaで示す。
【図4C】ウエスタンブロッティング(A〜B)およびELISA(C〜E)による、抗Tn mAbによるMUC6−Tn複合糖質の認識。 抗Tnモノクローナル抗体83D4(図4C)およびMLS128(図4D)ならびにポリクローナル抗MUC6血清(図4E)によるMUC6−Tn複合糖質の認識をELSAによっても試験した。アシアロ−ヒツジ顎下ムチン(aOSM、Tnリッチムチン)をコントロールとして使用した。
【図4D】ウエスタンブロッティング(A〜B)およびELISA(C〜E)による、抗Tn mAbによるMUC6−Tn複合糖質の認識。 抗Tnモノクローナル抗体83D4(図4C)およびMLS128(図4D)ならびにポリクローナル抗MUC6血清(図4E)によるMUC6−Tn複合糖質の認識をELSAによっても試験した。アシアロ−ヒツジ顎下ムチン(aOSM、Tnリッチムチン)をコントロールとして使用した。
【図4E】ウエスタンブロッティング(A〜B)およびELISA(C〜E)による、抗Tn mAbによるMUC6−Tn複合糖質の認識。 抗Tnモノクローナル抗体83D4(図4C)およびMLS128(図4D)ならびにポリクローナル抗MUC6血清(図4E)によるMUC6−Tn複合糖質の認識をELSAによっても試験した。アシアロ−ヒツジ顎下ムチン(aOSM、Tnリッチムチン)をコントロールとして使用した。
【図5A】MUC6−2:Tn(MCF7)免疫化マウス由来の血清によるヒトJurkat腫瘍細胞の認識。 フローサイトメトリー分析を、MUC6−2、MUC6−2:Tn(MCF7)またはミョウバン+CpG単独(コントロール群)を用いて免疫化したBALB/cマウス(1群当たり5匹)から集めた個別の血清(1:500希釈)とともにインキュベーションしたヒトTn+Jurkat腫瘍細胞に対して行った。
【図5B】MUC6−2:Tn(MCF7)免疫化マウス由来の血清によるヒトJurkat腫瘍細胞の認識。 阻害アッセイのために、細胞を、MUC6−2:Tn(MCF7)で免疫化したマウス由来の血清のプールとともに、種々の濃度のアシアロ−OSM(Tn+ムチン)または脱グリコシル化OSM(Tn−ムチン)と一緒にインキュベーションした。抗Tn IgM mAb 83D4および抗CD4 IgG mAbをコントロールとして使用した。抗体結合を、マウス免疫グロブリンに特異的なPE標識抗体を使用して検出した。アシアロ−OSMまたは脱グリコシル化OSMのために使用した濃度は、0μg/ml(-------);0.01μg/ml(--------);1μg/ml(......);100μg/ml(- -)であった。マウス血清を用いて得られた結果は2回の独立した実験の結果である。
【図6】組換えppGalNAc−T1またはMCF−7腫瘍細胞抽出物を使用した、UDP−GalNAcからMUC6ムチンへGalNAcの酵素的トランスグリコシル化のスキーム。
【図7A】SELDI−TOF MS分析。 ドナー量(パネル図7B〜7E)および酵素量(パネルE〜G)に依存する、ppGalNAcT1を使用したMUC6(分子量、12144.3、図7A)上のGalNAcトランスグリコシル化の進行のSELDI−TOF MS分析。パネルAは出発材料MUC6(UDP−GalNAcなしのインキュベーション反応)についてのコントロールとして作用する。平均質量数/電荷数(m/z)値(ダルトン)を各パネルにおいて矢印で印を付した中央ピーク上に示す。条件の詳細については、表2を参照のこと。
【図7B】SELDI−TOF MS分析。 ドナー量(パネル図7B〜7E)および酵素量(パネルE〜G)に依存する、ppGalNAcT1を使用したMUC6(分子量、12144.3、図7A)上のGalNAcトランスグリコシル化の進行のSELDI−TOF MS分析。パネルAは出発材料MUC6(UDP−GalNAcなしのインキュベーション反応)についてのコントロールとして作用する。平均質量数/電荷数(m/z)値(ダルトン)を各パネルにおいて矢印で印を付した中央ピーク上に示す。条件の詳細については、表2を参照のこと。
【図7C】SELDI−TOF MS分析。 ドナー量(パネル図7B〜7E)および酵素量(パネルE〜G)に依存する、ppGalNAcT1を使用したMUC6(分子量、12144.3、図7A)上のGalNAcトランスグリコシル化の進行のSELDI−TOF MS分析。パネルAは出発材料MUC6(UDP−GalNAcなしのインキュベーション反応)についてのコントロールとして作用する。平均質量数/電荷数(m/z)値(ダルトン)を各パネルにおいて矢印で印を付した中央ピーク上に示す。条件の詳細については、表2を参照のこと。
【図7D】SELDI−TOF MS分析。 ドナー量(パネル図7B〜7E)および酵素量(パネルE〜G)に依存する、ppGalNAcT1を使用したMUC6(分子量、12144.3、図7A)上のGalNAcトランスグリコシル化の進行のSELDI−TOF MS分析。パネルAは出発材料MUC6(UDP−GalNAcなしのインキュベーション反応)についてのコントロールとして作用する。平均質量数/電荷数(m/z)値(ダルトン)を各パネルにおいて矢印で印を付した中央ピーク上に示す。条件の詳細については、表2を参照のこと。
【図7E】SELDI−TOF MS分析。 ドナー量(パネル図7B〜7E)および酵素量(パネルE〜G)に依存する、ppGalNAcT1を使用したMUC6(分子量、12144.3、図7A)上のGalNAcトランスグリコシル化の進行のSELDI−TOF MS分析。パネルAは出発材料MUC6(UDP−GalNAcなしのインキュベーション反応)についてのコントロールとして作用する。平均質量数/電荷数(m/z)値(ダルトン)を各パネルにおいて矢印で印を付した中央ピーク上に示す。条件の詳細については、表2を参照のこと。
【図7F】SELDI−TOF MS分析。 ドナー量(パネル図7B〜7E)および酵素量(パネルE〜G)に依存する、ppGalNAcT1を使用したMUC6(分子量、12144.3、図7A)上のGalNAcトランスグリコシル化の進行のSELDI−TOF MS分析。パネルAは出発材料MUC6(UDP−GalNAcなしのインキュベーション反応)についてのコントロールとして作用する。平均質量数/電荷数(m/z)値(ダルトン)を各パネルにおいて矢印で印を付した中央ピーク上に示す。条件の詳細については、表2を参照のこと。
【図7G】SELDI−TOF MS分析。 ドナー量(パネル図7B〜7E)および酵素量(パネルE〜G)に依存する、ppGalNAcT1を使用したMUC6(分子量、12144.3、図7A)上のGalNAcトランスグリコシル化の進行のSELDI−TOF MS分析。パネルAは出発材料MUC6(UDP−GalNAcなしのインキュベーション反応)についてのコントロールとして作用する。平均質量数/電荷数(m/z)値(ダルトン)を各パネルにおいて矢印で印を付した中央ピーク上に示す。条件の詳細については、表2を参照のこと。
【図8A】図7Gの代表的な実験に対する分析方法の分解能の比較(1当量のUDP−GalNAcおよび1μgのppGalNAcT T1/10μgのMUC6)。 質量増大の詳細を示す拡大したSELDI−TOF質量スペクトル(ダルトンでのm/z値)。
【図8B】図7Gの代表的な実験に対する分析方法の分解能の比較(1当量のUDP−GalNAcおよび1μgのppGalNAcT T1/10μgのMUC6)。 逆相HPLCプロフィール;クロマトグラフィー条件:Waters Symmetry C18(5μm、300Å、3.9×250mm)、流速1mL/分、30分間にわたる水(0.1%トリフルオロ酢酸)/アセトニトリル(10〜60%)での勾配。
【図9A】出発材料MUC6(UDP−GalNAcなしのインキュベーション反応)についてのコントロールとして作用する。平均質量数/電荷数(m/z)値(ダルトン)を両方のパネルにおいて矢印で印を付した中央ピーク上に示す。条件の詳細については、表2を参照のこと。
【図9B】MCF−7腫瘍細胞抽出物を使用したコンジュゲーション反応のSELDI−TOF MS分析。
【図10A】MUC6−1(配列番号8の核酸配列および配列番号9のアミノ酸配列;Hisタグを有するMUC6−1の核酸配列=配列番号10)、およびMUC6−2(配列番号11の核酸配列および配列番号12のアミノ酸配列;Hisタグを有するMUC6−2の核酸配列=配列番号13)のDNAおよびアミノ酸配列を示す。
【図10B】MUC6−1(配列番号8の核酸配列および配列番号9のアミノ酸配列;Hisタグを有するMUC6−1の核酸配列=配列番号10)、およびMUC6−2(配列番号11の核酸配列および配列番号12のアミノ酸配列;Hisタグを有するMUC6−2の核酸配列=配列番号13)のDNAおよびアミノ酸配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質担体の非存在下で、ヒト腫瘍細胞を認識するIgG抗体を誘導することができる、免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質であって:
− 免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質は、アポムチン骨格に結合されたSerまたはThr残基に直接的にO結合されている炭水化物部分を含み、そして
− 前記アポムチン骨格のSerまたはThr残基に直接的にO結合されている炭水化物部分の各々はGalNAc部分であり、そして
− 前記アポムチン骨格は以下:
i.少なくとも1つのアポムチン、および/または
ii.少なくとも1つのアポムチンのフラグメントであって、前記少なくとも1つのフラグメントが少なくとも1つのアポムチンタンデム反復単位を含み、そして前記少なくとも1つのフラグメントが抗腫瘍IgGを誘導する前記能力を保持している、フラグメント、および/または
iii.少なくとも1つのアポムチンのサブフラグメントであって、前記少なくとも1つのサブフラグメントがアポムチンタンデム反復単位の少なくとも15個の連続したアミノ酸を含み、そして前記少なくとも1つのサブフラグメントが抗腫瘍IgGを誘導する前記能力を保持している、サブフラグメント、および/または
iv.アポムチン、またはiiにおいて定義するフラグメント、またはiiiにおいて定義するサブフラグメントの少なくとも1つの保存的変異体であって、前記少なくとも1つの保存的変異体の配列が前記アポムチン、またはフラグメント、またはサブフラグメントの配列と、該タンパク質またはフラグメントまたはサブフラグメントの配列の全長にわたって少なくとも70%の同一性を有し、そして前記少なくとも1つの保存的変異体が抗腫瘍IgGを誘導する前記能力を保持している、保存的変異体
のアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする、免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項2】
前記アポムチンがMUC6アポムチンであることを特徴とする、請求項1に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項3】
前記MUC6アポムチンタンパク質が配列番号9、配列番号6、配列番号7または配列番号15のタンデム反復単位配列を含むことを特徴とする、請求項2に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項4】
請求項1のiiiにおいて定義する前記少なくとも1つのサブフラグメントが前記アポムチンタンデム反復単位の少なくとも85個の連続したアミノ酸を含むことを特徴とする、請求項2または3に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項5】
前記アポムチンがMUC3アポムチンであることを特徴とする、請求項1に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項6】
前記アポムチンがMUC4アポムチンであることを特徴とする、請求項1に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項7】
前記アポムチンがMUC5アポムチンであることを特徴とする、請求項1に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項8】
前記MUC5アポムチンがMUC5ACアポムチンであることを特徴とする、請求項7に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項9】
請求項1のiiiにおいて定義する前記少なくとも1つのサブフラグメントが、前記アポムチンタンデム反復単位の少なくとも20個の連続したアミノ酸を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項10】
請求項1のiiiにおいて定義する前記少なくとも1つのサブフラグメントが少なくとも1つのCTLエピトープを保持していることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項11】
前記アポムチンがMUC6アポムチンであり、前記少なくとも1つのCTLエピトープの配列が配列番号16〜23からなる群より選択される配列であることを特徴とする、請求項10に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項12】
前記アポムチン骨格中に含有されるSerおよびThr残基の少なくとも40%がGalNAc残基に直接的にO結合されていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項13】
前記直接的にO結合されたGalNAc部分の少なくとも1つに結合した少なくとも1つの炭水化物部分をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項14】
前記少なくとも1つのGalNAcに結合した炭水化物部分がGalNAc部分、シアリル基、またはガラクトース部分であることを特徴とする、請求項13に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項15】
前記アポムチン骨格が以下:
− 少なくとも2つのアポムチン、および/または
− 少なくとも2つの請求項1のiiにおいて定義するフラグメント、および/または
− 少なくとも2つの請求項1のiiiにおいて定義するサブフラグメント、および/または
− 少なくとも1つのアポムチン、および少なくとも1つの請求項1のiiにおいて定義するフラグメント、および/または
− 少なくとも1つのアポムチン、および少なくとも1つの請求項1のiiiにおいて定義するサブフラグメント、および/または
− 少なくとも1つの請求項1のiiにおいて定義するフラグメント、および少なくとも1つの請求項1のiiiにおいて定義するサブフラグメント
の配列を含むことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項16】
前記アポムチン骨格中に含有される、前記少なくとも2つのフラグメント、および/または前記少なくとも2つのサブフラグメント、および/または前記少なくとも1つのフラグメントおよび少なくとも1つのサブフラグメントの各々が、異なるアポムチンのフラグメントまたはサブフラグメントであることを特徴とする、請求項15に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項17】
前記少なくとも2つのフラグメントの各々の配列がアポムチンタンパク質のタンデム反復単位配列であることを特徴とする、請求項15または16に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質。
【請求項18】
− 少なくとも1つの請求項1〜17のいずれか1項に記載の免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質、および/または
− 少なくとも1つの免疫グロブリン構造、または少なくとも1つの免疫グロブリンフラグメントであって、Fcフラグメント、Fvフラグメント、Fabフラグメント、F(ab)’2フラグメント、軽鎖、または重鎖である免疫グロブリンフラグメント
を含む、可溶性免疫複合体。
【請求項19】
タンパク質担体の非存在下で、ヒト腫瘍細胞を認識するIgG抗体を誘導することができる、Tnに基づくムチン複合糖質の産生を可能にし、そして少なくとも半調製規模の量での該複合糖質の産生を可能にする、免疫原性のTnに基づくムチン複合糖質のin vitro産生の方法であって、少なくとも1つのN−アセチルガラクトサミン(GalNAc)をアポムチン骨格の少なくとも1つのSerまたはThr残基上へin vitroで転移することを含むことを特徴とし、
前記アポムチン骨格は以下:
i.少なくとも1つのアポムチン、および/または
ii.少なくとも1つのアポムチンのフラグメントであって、前記少なくとも1つのフラグメントが少なくとも1つのアポムチンタンデム反復単位を含み、そして前記少なくとも1つのフラグメントが抗腫瘍IgGを誘導する前記能力を保持している、フラグメント、および/または
iii.少なくとも1つのアポムチンのサブフラグメントであって、前記少なくとも1つのサブフラグメントがアポムチンタンデム反復単位の少なくとも15個の連続したアミノ酸を含み、そして前記少なくとも1つのサブフラグメントが抗腫瘍IgGを誘導する前記能力を保持している、サブフラグメント、および/または
iv.アポムチン、またはiiにおいて定義するフラグメント、またはiiiにおいて定義するサブフラグメントの少なくとも1つの保存的変異体であって、前記少なくとも1つの保存的変異体の配列が前記アポムチン、またはフラグメント、またはサブフラグメントの配列と、該タンパク質またはフラグメントまたはサブフラグメントの配列の全長にわたって少なくとも70%の同一性を有し、そして前記少なくとも1つの保存的変異体が抗腫瘍IgGを誘導する前記能力を保持している、保存的変異体
のアミノ酸配列を含み、
そして前記in vitroでの転移は少なくとも1つのUDP−N−アセチルガラクトサミン:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(ppGalNAc−T)を使用して酵素的に行われる転移である、方法。
【請求項20】
前記アポムチンがMUC6アポムチンであることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記アポムチンがMUC3アポムチンであることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記アポムチンがMUC4アポムチンであることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記アポムチンがMUC5アポムチンであることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記アポムチンがMUC5ACアポムチンであることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項19のiiiにおいて定義する前記少なくとも1つのサブフラグメントが、前記アポムチンタンデム反復単位の少なくとも20個の連続したアミノ酸を含むことを特徴とする、請求項19〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つのppGalNAc−Tがガン細胞の酵素含有抽出物を提供することによって提供されることを特徴とする、請求項19〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記少なくとも1つのppGalNAc−TがppGalNAc−T1、ppGalNAc−T3、ppGalNAc−T6、ppGalNAc−T7、ppGalNAc−T13であることを特徴とする、請求項19〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記GalNAcの転移がSELDI−TOF質量分析によってモニタリングされることを特徴とする、請求項19〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記Tnに基づくムチン複合糖質が反応混合物から精製されることを特徴とする、請求項19〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
請求項19〜29のいずれか1項に記載の方法によって得ることができ、そしてそのアポムチン骨格中に含有されるSerおよびThr残基の総数の少なくとも40%がGalNAc部分に直接的にO結合されていることを特徴とする、Tnに基づくムチン複合糖質。
【請求項31】
細胞抽出物を含有する混合物におけるGalNAcバイオコンジュゲーションの過程をモニタリングするための、SELDI−TOF質量分析の使用。
【請求項32】
タンパク質担体の使用を必要としない、免疫原性組成物であって、以下:
− 少なくとも1つの請求項1〜17、または30のいずれか1項に記載のTnに基づくムチン複合糖質、および/または
− 少なくとも1つの請求項18に記載の可溶性免疫複合体
を含む、免疫原性組成物。
【請求項33】
抗腫瘍ワクチンであることを特徴とする、請求項32に記載の免疫原性組成物。
【請求項34】
さらに少なくとも1つの薬学的および/または生理学的に許容可能なビヒクルを含むことを特徴とする、請求項32または33に記載の組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A−7G】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A−9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【公表番号】特表2009−523137(P2009−523137A)
【公表日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549768(P2008−549768)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際出願番号】PCT/EP2006/002577
【国際公開番号】WO2007/079783
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(593218462)インスティチュート・パスツール (19)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【出願人】(500470482)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(セーエヌエールエス) (25)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE (CNRS)
【出願人】(500488225)アンスティテュ ナシオナル ド ラ サント エ ド ラ ルシュルシェ メディカル(アンセルム) (26)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE(INSERM)
【住所又は居所原語表記】101,rue de Tolbiac,F−75654 Paris Cedex 13 France
【Fターム(参考)】